Happy Days・11



☆☆☆


「──…凄い!!」


ゲオルグは、戦闘機を追って礼拝堂から駆け出した。背中に負った友人の重さも感じない。ついさっきまでここに爆撃があったのだということも忘れ、ついつい上空を征く銀色の機体を追ってしまう。スワロゥだけをシェルターの中に避難させ、近くに生え残っていた巨木に身を隠すようにして、見守る。


 ご、ごごごごご……。


やがて、響いてきた重低音。陽光が、青空が遮られる。黒色の巨大円盤。
機械化帝国の──戦闘母艦。資料映像でしか見たことのないその姿に、ゲオルグは恐怖を覚える。なんて大きく、おぞましい姿。


ハッチが開き、中から十数機の小型円盤が飛び出してきた。銀色の機体が上昇する。ミサイルやエネルギーバルカンの発射音。瞬く間に空に黒煙が広がる。けれど、撃ち落とされてもきりなく現れる円盤。戦っているのはあの銀色の機体一機だけなのだろうか。他は、先程の攻撃で全滅したのだろうか。

けれど、周囲を見回してもそれらしき残骸は見つからない。遠くの森に撃墜された円盤が落ちていく。機械化帝国の空間機動一部隊全てにマークされているというのに、あの銀の戦闘機はなんて美しく飛ぶのだろう。エネルギーバルカンの隙間を縫うようにして確実に相手をファイヤーボールにしていくその技量。ゲオルグはその姿を追うだけで精一杯だというのに。


「これが…地球連邦軍……」


なんという、強さ。ゲオルグとて戦闘機繰りのシミュレートではクラスで上位の成績を誇るのだ。けれど、あの強さ、あの速さに敵うとは到底思えない。
これが、これが本当の戦士の力なら。



「なーにか」



不意に、頭上でナニカが鳴いた。驚いて見上げると、すぐ上の枝に小さな茶色いモノが止まっている。リス、にしては少々大き過ぎる。サルかとも思ったが、この辺にサルなど生息していない。


「……巨大モモンガ……?」


「人類じゃ、ボケ」


どうして人類に見えないのであろうか、と小さな人類は枝の上で嘆息する。
薄汚いポンチョの先から小振りではあるが紛れもなく人の手が現れて、ゲオルグはようやく彼が『人類』であると認識した。


「す、すみません。でも、あの」


「もう気にしないのである。おい童、お前ナニをしておるのだ。避難しろと
 言われたであろうに」


音も無く降りてくる小さな、人。幼児かとも思ったが、その老成した口調や
声は大人の男のそれである。見かけよりもずっと年上なのだ。ゲオルグは「すみません」ともう一度繰り返した。


「はい…それは、その。言われました。でも、気になって」


「ふむ、やはり澪はカリスマだな。まだ幼く単純な子供の心とはいえ、
 あれだけの短時間でもう信望者を作っておる。さすがは──我が親友
 唯一の好敵手となりうる男だ。油断は出来ん」


油断は出来ないと言いながら、男は大層楽しそうである。ゲオルグは満足げに顎を擦る男を見下ろし、「あの」と恐る恐る問いかけた。


「貴方も──連邦軍の」


「うむ。地球連邦機械課所属、頭脳機械工作班班長大山十四郎である。
 しかし技術者の俺まで引っ張りだされるとは……全くもって面倒この上な
 い」


「それじゃあ、あの戦闘機のパイロットともお知り合いなのでしょうか。
 あの──レイという方と?」


「童、言葉は正確に使え」


ちちち、と男──大山十四郎が人差し指を振り立てた。


「地球連邦機動軍特殊戦闘機『ヘル』のパイロットは澪ではない。
 グレート・フリューゲル・ハーロック少尉だ。66地区所属の連邦機動軍
 最強最速のエース。そして『ヘル』を設計、製造したのはこの俺である」


「『ヘル』…地獄……ですか」


「いーや、“冥界の女神”だ。北欧神話にちなんでおる。『フェンリル』でも
 良かったのだが、ハーロックは華奢で線が細いからな、 “滅びのオオカ
 ミ”よりは “冥界の女神”の方が良い。良い名前であろう? 凄いと言
 うのだ」


「え、は…凄い…です」


ナニを言っているのか全くわからない。しかし、儀礼的に口にした言葉でも十四郎は嬉しそうに笑った。無邪気というか、単純というか。どうして良いのかわからないまま、ゲオルグは彼と共に空を眺める。


「あの。それじゃあ、レイという方は確か…ご本人は陸軍と言っておられ
 ましたが」


「うむ。澪は58地区所属の陸軍将校だ。休暇中で遊びに来ておったのにな、
 気の毒である」


「やっぱり…陸軍……?」


それなら何故戦闘機で空に向かったりしたのだろう。無論、敵は空にいるのだから空中戦になるのは当然だろうが、それは陸軍の仕事ではない。


「もっと…味方は来ているのでしょうか。さっきからあれ一機で」


「アレではない『ヘル』だ」


「すみません、『ヘル』一機であれだけの敵機を迎え撃つなんて無謀です」


「無謀ではないのである。それに…雑兵などいくらいても邪魔なものだ。
 一騎当千が数人いれば充分である。陸軍の歩兵も、機動軍の戦闘機部隊も
 澪とハーロックの邪魔になるだけだ」


無邪気な顔に、ふと浮かぶ怜悧さ。ゲオルグは思い出していた。確か、今の
連邦軍には機械化帝国との圧倒的な戦力差を埋める切り札があることを。


「あの2人は…愛しい俺の創作物だ。ふむ、『愛しい』などと。意味のわか
 らない言葉を使うのは的確ではないな。だが、技術者にとって己の創作物
 がかけがえのない対象であるということは間違いがない。まぁ良いや。と
 にかく童よ。よく見ておくのだな。『ヘル』を繰るハーロックと澪のコン
 ビが負けることなどあり得ないのだ。この──14番目の“エルダ”大山
 十四郎の加護がある限り」


「14番目の…“エルダ”」


そうだ。地球最初で宇宙史最年少の叡智の使徒。その名が確か“オオヤマ”というのだった。ゲオルグは息を呑む。こんなにも、小さな男なのに。


「見ろ、童」


十四郎が天空を征く『ヘル』を示す。


「これから面白いものが見られるど。好奇心が旺盛で良かったな」


「面白いもの?」


見上げる。銀色の機体は相変わらず軽やかに敵をかわし、確実にその数を減らしていた。緩やかにではあるが上昇し、敵戦闘母艦のちょうど真上にその機体をキープする。


「良い位置だ。さすがはハーロック」


十四郎が飛び跳ねた。「来るど来るど」と囃されて、ゲオルグもついつい期待を込めて『ヘル』を眺める。

きら、と銀色のその風防に煌く、小さな光。


「澪だ」


「レイ……? そんな。数千メートルも上空なのに」


生身の人間がそんな場所にいられるわけがない。何より、戦闘機の風防の上に立つなどと。到底不可能なことである。ゲオルグが十四郎を見下ろすと、彼はこの上なく楽しそうな顔をしていた。


「瑣末な常識などこの俺と友の間には何の効力も無い。澪はたとえ高度1万
 メートルあろうとも立っていられる男だし、ハーロックは風防の殆どを
 塞がれて視界を遮られていても何ら戸惑うことなく『ヘル』を繰ることが
 出来る男。童よ、憶えておけ。最強とは何物にも揺るがないということ、
 そして最強とは──」



「この俺達のことなのだ」



何の感情も、感慨もなく十四郎は言う。まるでそうあることが当然なのだとでも言うように。


 りりりりりりりりりぃん──…


天空が鳴る。沢山の鈴を、一気に揺らしたかのような音。軽やかな、大音量。
陽光に反射する銀色の『ヘル』。風防に立つその光が、ゆっくりと膨れ上がっていく。地上にいても感じる振動。風が、あの場所へ集まっていく。もう一つの太陽が瞬く間に構築されていく。


「あの音、光は──?」


「『Heaven'S gate in The rain』」


つまりレイだ。十四郎が目を細める。あの将校──レイという名と、光を示す『Ray』をかけているのだということは理解出来たが、それだけでは彼の放つあのエネルギー熱量の説明になっていない。ゲオルグが問い直すと、十四郎は面倒臭そうに「オーラ精製だ」と鼻をほじった。


「聞いたことくらいはあろう、童。オーラだ。人間の身体を頭頂から爪先
 までカヴァーする微弱なエネルギー波。これをオーラというのだがな、
 特殊な金属を数種類混ぜ合わせた合金を使用して装着することにより、
 このオーラを集束、物理的な作用を及ぼすまでに圧縮することが出来る
 のだ。圧縮されたオーラがどのような特性を持つかは個人差があるのだが、
 そのエネルギー量にも無論個人差がある。童、見ておれ」


光は、蒼穹でその輝きを増して。


「澪は──強いど」



 りりりりりりりり………



鳴り響く。鈴の音。それが彼の纏っていたあのコートから発せられているのだと気付く。陽光をそのまま映し取ったかのような──金属製のコート。

あれが、この頭一つ分低いところで目を輝かせる“エルダ”の創作物。


「『Heaven'S gate in The rain』……」


天国の門に、降り注ぐ雨。光のコートが広がる。澪の背後に集まっていくエネルギー。集束していく、力。



 きぃぃぃぃぃぃぃん──ッ!!



弾けた。今や翼のようにも見えるコートから、幾筋もの光線が滑り出した。
空に電光が走り、凄まじい轟音が耳を貫く。

雷鎚だ。機械化帝国の戦闘母艦を、神鳴る光が貫いていく。


Heaven'S gate in The rain。すなわち、大密度・熱量のエネルギー光子砲。


「──…ッ!!!」


光に目のくらんだ一瞬だった。ほんの一瞬で、空の半分を埋め尽くしていた巨大円盤が消滅した。撃墜、ではない。完全に、原子に還してしまったのだ。人間が──人間にそれほどの力があるなんて。


「最強……」


確かにその言葉が相応しい。何という荘厳さ。何と、圧倒的な。


「ま、雲中に発生しておる静電気なども集めておるのだがな。澪がその身の
 内に秘めておるオーラの絶対量はゆうに地球の戦艦の主砲クラスを超えて
 おる。ハーロックでもあれほどの出力は不可能なのだ。邪悪を貫く正義の
 光か、人の身に宿る希望の灯か……まこと、ウォーリアスの血統は偉大で
 あるど」


十四郎が顎を擦った。ゲオルグはただただこちらへ向かって降りてくる『ヘル』を見つめていた。何故か、涙が零れてくる。きらきらと、光の粒子が地上にまで降りてきて、広げた掌を温かく透きとおっていく。


「俺も…俺もいつかあんな風になれますか」


思わず、呟く。十四郎が不思議そうにゲオルグを見上げた。


「ん? 澪みたいになりたいのか。童、それは不可能であるど。何故なら、
 アレはオーディンの」



「おぉ、終わったみたいですね。大山、お疲れさまです」



彼の言葉を遮るように、1人の男が背後から優雅に近付いてきた。亜麻色の髪、女性のように整った面立ち。青い軍服。彼も澪と同じ、地球連邦陸軍所属の将校だ。


「あんまり子供にわけのわからないことを言うんじゃありませんよ。避難し
 損ねてるじゃないですか。貴方は本当に周囲に目がいかない男ですねぇ」


「なーにか。この子供は自主的に居残っておったのだ。澪に見惚れて
 おったど。時夫、お前以外にもあの男の良さをわかる者がいたのだ。
 喜ばんか」


「おやおや。子供のくせに、生意気な」


トキオ、と呼ばれた男はすぐ傍に来て見下ろしてきた。何だか得体のしれない男だ。ゲオルグは少し身を固くした。とても綺麗な笑顔なのに──目が全く笑っていない。


「あ、あの俺」


「えぇ、良いんですよ。あの人が面白いのは本当ですから。面白過ぎて…
 目が離せない。貴方もご同胞なら卒業後、是非陸軍に」


「えっと…」


面白いなんて一言も言っていない。釈然としないまま、ゲオルグは取り敢えず差し出された手を握った。その直後、一陣の風を巻き上げて、『ヘル』が降りてくる。


「──大山」


何故かぐったりとしている澪に肩を貸し、降りてきたのはパイロットスーツに身を包んだ長身の男。


「ハーロック!」


「これはこれは、お疲れさまですハーロック、澪さん」


十四郎が嬉しそうに、時夫がわざとらしい優雅さで男の前に立った。ヘルメットを外し、澪を時夫の胸に預け、男は優しく十四郎の前に膝を折る。


「敵の残存兵力はもう無さそうだ。本部に連絡を」


「お前と澪が出たときからとっくに報告は終了しておる。勝利は確定して
 おったからな。機械化帝国の主力戦隊ならともかく、たかが様子見が
 お前達に敵うものか。腹が減ったど。朝ごはんが食べたい」


食べたい、とまるで子供のようにパイロットの胸にしがみつく十四郎。男
──ハーロックはその頭を本当に愛おしそうに撫でた。


「あぁ、シーフードの美味い店を知ってる。報告も済んでいるなら問題ない
 な。行こうか、大山」


「うむ。今行くのだ。すぐ行くのだ。俺、海老喰いたい」


「ではそうしよう。……おや、君は?」


ハーロックの視線が、ゲオルグを捉えた。爽やかな朝の光の下、男は大層儚く、美しく輝いている。エナメル質な鳶色の髪、深緑を含んだ同色の瞳。

澪とは全く種類の違う、清楚で可憐なその容貌。


「あ……はい。ヴェルナー学院軍人養成学部所属、ゲオルグ・ノイマイヤー
 です」


同性だとわかっていても、胸がときめいた。「そうか」と微笑まれて、頬に熱が集まるのがわかる。ゲオルグは思わず背筋をぴんと伸ばして敬礼した。


「あ、あの、助けて頂いて──本当に」


「これが私達の仕事だからな、そんなに緊張することはない。さぁ、君は
 シェルターに行きなさい。先生方の指示に従ってすみやかに自宅待機の
 行動を取らなくては」


「あ、あのでも」


「? 何か不都合でもあるのかね」


ハーロックが、首を傾げる。何でもないその仕草さえ優雅だ。ゲオルグは躊躇いがちに時夫の腕に支えられている澪を見つめた。


「その……その人は。その人が俺と友人を救ってくれたんです。でもあの」


澪の顔は蒼白だ。濃茶の髪が汗ばんで頬に張り付いている。呼吸は荒く、
支えられてなお立っているもの辛そうだった。


「あぁ、澪。ゲオルグくんは君にお礼が言いたいそうだよ」


ハーロックがそっと澪の肩に触れた。「駄目ですよ」と時夫が眉を顰める。


「澪さん半分気絶してます。大山、『Heaven'gate in The rain』まだまだ
 改良の余地がありますね。使用者が生身の人間だって忘れてるでしょう、
 アンタ」


「別に忘れてはおらんが…うむ、セミ・オリハルコンはまだ未完成な部分が
 多いからな。善処しよう」


十四郎が頷く。オーラというのは人間の生命力とも言い換えられるもの。やはり、戦闘母艦一隻を原子に還すほど放出することは危険なのだろう。澪の身体は大丈夫なのだろうか。ゲオルグが問うてみようとしたその時。


「あー…もう良いぜ時夫。もう…立てる……」


澪が、時夫を押し退けて立った。まだ顔色は悪いものの、何とか自立している。一度深呼吸するように空を仰ぎ、頬に張り付いた髪を掻き上げて、澪の
視線がゲオルグを捉えた。


「なんだ、お前避難してなかったのかよ。不良だな」


にか、と無邪気な笑みを浮かべる。言葉を──かけてくれた。ただそれだけなのにゲオルグの胸は高鳴った。


「は、はい! いえ、あの。でも俺、友達は──その。あの、何て言ったら
 良いか……あの時、貴方が立てと言ってくれなかったら……。それに、
 あの」


「ちょっと、無茶ですよ澪さん。アンタこの前これぶっ放したときは2日間
 立てなかったでしょう。いくら鍛えてるからってそんな簡単に立てるよう
 には」


「バーカ時夫。口挟むなよ。不器用な子供の声っていうのはちゃんと聞いて
 やるもんだ。それに…男は誰かが自分を見てくれてるときは、無様に倒れ
 たり膝をついたりしないモンだぜ」


時夫の額にデコピンを一撃。「な?」と笑顔で見つめられ、ゲオルグは思わず何度も頷いていた。神さまのような人だ。そう思う。容姿が整っているとか、強いことなどよりもそれ以前に。

ゲオルグとは──否、常人とはまるで違う存在。そんな彼の言葉に、首を振ることなど到底出来ない。


「あ、そうだ。そこの礼拝堂でな、トムくんが死んでる」


ゲオルグの頭を力強く撫で、澪がすたすたと歩き出した。が、ふと思い出したようにハーロックを振り返る。ハーロックは僅かに目を見開き「ほぅ」と澪と肩を並べた。


「トム・キャットか。教師になったとは聞いていたが…てっきりもっと田舎
 の方へ赴任したものかと」


「な、意外だろ。俺もそう思ってたんだけどよ」


「なーにか。まだこっちに居残っておったのか。アレは戦闘資質を欠いて
 おる。教師になるならなるで場所を選べとこの俺があれほど言ってやった
 のに。アイツは鈍くさいからな。攻撃を受ければ死ぬのは必然である。
 そうである」


十四郎が盛大に溜息をついた。ハーロックが慈愛に満ちた眼差しで彼の頭を一撫でし、さりげなく彼の発言を嗜めた。


「大山、君の言うことはいつだって正しい。だが、人の心というものは、
 常に正しいことに副うとは限らない。トムはトムなりに──想うところが
 あったのだろう。彼は…この場所が好きだと言っていたからね」


「ふむ、愛着心というものか? ハーロックよ、それは自分の命よりも大切
 なのか? 大義を果たすために人は生きる。だが、それには相応なものが
 あるのだ。トムはここにいるべきではなかったのだど」


「人の心──信念というものは、ときに命よりも大切なときがある。そうだ
 ね、ゲオルグくん」


何かを悟っているかのように、ハーロックが微笑む。ゲオルグは「そうです」と背筋を伸ばした。


「先生は、命を懸けて俺と…友達を。俺が、もっとちゃんとしていれば」


立てていれば良かったのに。きちんと立って、逃げられていればあの講師が死ぬようなことにはならなかったのだ。ゲオルグは己の無力に唇を噛む。
どうして──もっと強く、大人でいられないのだろう。


「教師が有事に生徒を守るのは当然のことだ。トムくんは、偉かった
 ぜ」


澪が淀みのない足取りで礼拝堂に入る。「まぁ、そうですね」と時夫がそれに付き従った。「どこか良いところに埋葬して差し上げよう」とハーロックが続く。「……死体遺棄罪だど」と十四郎が頭の後ろで腕を組んだ。不思議な4人組だった。誰1人重なるところを持っていない。誰1人、似たところを持っていない。

これが、最強の名に相応しい男達。


「埋葬は俺達の仕事じゃないね。それに…亡骸は家族に返してやった方が
 良い。俺達は俺達に出来ることをしようぜ。勇敢なる──かつての同級生
 に」


さっきまで半気絶状態だったのが嘘のような足取りの軽さで、澪が祭壇の前に立つ。ハーロックが上着を脱ぎ、そっと講師の亡骸に被せた。


「おあつらえむきに礼拝堂だ。──送ってやるぜ、“泣き虫キャット”」


澪の一言で、全員が心臓の上に拳を乗せる。だが、葬送のときのように俯きはしない。ただ、まっすぐに前だけを向いて。



「礼砲! 信念のために命を懸けた友に!!」



 りぃん……っ。


再び、澪のコートが輝き始める。一瞬怯んだゲオルグに「大丈夫ですよ」と時夫が囁く。


「あれは──攻撃ではありません。ただの“神為る光”です」


「神為る、光……」


光が、天に向かって突き出された澪の拳に収束する。軽やかな鈴の音。
やがて、弾けて。



「オーバー・レイ」



 りぃんっ。


真っ直ぐに──淀みなく天に昇っていく、光。脆くなった天井を貫いて、蒼穹さえも越えていく。

あとには、静寂と──優しい太陽の光。もう、言葉も無く。



……俺は、きっとこの人に会うために強くなる。



天を仰ぐ彼の横顔に、ゲオルグは軽い眩暈と、新たな決意を抱いて。


神の御前に、誓った。















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