Happy Days・12



★★★

ベンツ型エアカーは静かに郊外を走り抜けていく。
既に街の灯も消え、夜空には零れ落ちんばかりの星の光。大気汚染も進んで久しいこの地上でも、この街だけは特別だ。空気の澄んで、美しい故郷。
かつては楽園とも呼ばれたハイリゲンシュタット。

穏やかに。時間が止まったかのようなこの場所で、まさか聖夜に子供達が奪われるとは。

指定された午前0時まであと30分。このまま何の妨害もなければ、15分
ほどで逆探知した場所に辿り着けるだろう。グレート・ハーロックはぎゅっとハンドルを握り直す。

小さな愛しいファルケ・キント。最愛の親友の子供達。必ず無事に取り戻そうと、繰り返し、心に誓う。


「まさか、ゲオルグ・ノイマイヤーが裏切るとはねぇ」


テーラが用意したサンドイッチを食べながら、時夫が一人ごちた。「なんだ?」と十四郎が応じる。


「そんなにも意外な人物であったのか? ゲオルグ…ゲオルグ・ノイマイ
 ヤーか。ん、どこかで聞いたことがあるような」


「あるでしょうね、そりゃ。会ったことあるはずですよ。アンタ達」


時夫が身を乗り出してくる。ハーロックは暫し逡巡し、「あぁ」と相槌を打った。


「憶えているよ。確か…10年程前のことだ。私達がまだ軍にいたころに」


「おぉ、あの時か。ラー・アンドロメダ・プロメシュームが奇襲を仕掛け
 てきたときのことであるな。そうか、あの時の童が裏切ったか」


十四郎が手を叩く。どことなく楽しそうなのは、こんなときでも混乱と無秩序を好む性質からか。揺らぐことのない魂は、ひたすらに心を震わせるような事態が起こることを望む。病に身を侵されていても、それは変わらないようだった。


「だけど、中佐の部下の方なのでしょう? 裏切るなんて、そんな」


アーサーが身を縮こまらせた。この純粋な少年には、一度信じた人間に反旗を翻すなど考えもしないような恐ろしい行為なのだろう。ファルケ・キントは良い友を得た。ハーロックは微笑する。


「恐らく、本人は裏切ったなどとは思っていないのかもしれないな。行為
 そのものは確かに…上官への背信行為そのものだ。けれど、軍人から離
 れた視線で見れば、彼の行為は決して背信とは呼べない。男が自分の認
 めた最強の男を倒したいと望むこと…それは男なら、当然の欲求なのだ
 からね」


「まぁ、つまり一番になりたいってわけですよ。この世に最強を名乗る男
 なんて2人も3人もいりませんからね。貴方だってそうでしょうアーサー
 くん。ジュニアくんのお友達とお聞きしましたが──ジュニアくんと共
 に宇宙に出るなら、そのうちにどちらが本当の一番なのか決めたくなり
 ますよ」


あの子は強そうですからね。時夫は少し羨ましそうに言う。態度にこそあまり出ないが、誰よりも澪に心酔し、その意志の下に付き従う彼には零少年がいささか物足りないように見えるのだろう。確かに、彼には澪のようなインパクトも鮮烈さも欠けている。そもそも、戦士になることに向いていないのかもしれない。

誰よりも愛した男の面影を漂わせていながら、誰よりも愛した男に似ていない唯一無二の嫡子。

それは耐え難い負の感情を沸き上がらせるだろう。ハーロックにもわかる気持ちだった。
悟られぬようにバックミラーから十四郎を見つめる。限りなく0に近い14番目の“エルダ”。かけがえのない親友。最愛の存在。
小さな小さな大山敏郎。あの子は確かに“エルダ”の称号を受け継ぐだろう。けれど、十四郎のようにはきっとならない。否、決して十四郎のようにはなれないのだ。

誰も。決して。この死にゆく偉大な友のようには。


「一番なんて…俺は、ハーロックと一緒に一番になるんです。争うなんて、
 考えられません」


アーサーが怖ず怖ずと呟いた。けれど、その瞳は絶対の自信に満ちている。


「アイツと一緒に宇宙最強になるんです。俺はアイツのために命を懸けて、
 アイツは俺のために命を懸ける。子供がイノチなんて言葉を口にするの
 はいけないと、さっき中佐が言ったけど、俺は友達のためなら…本当に
 大事な友達のためなら、心臓だって命だって惜しくない。そのときが来
 ても、笑って死ねると思うんです。それは俺が子供だからじゃ、ない。
 絶対に、違います」


「言うじゃないか。童」


チャイルドシートに拘束されながらも、十四郎が精一杯体を伸ばしてアーサーを覗き込む。


「その心も正しいど、童よ。だが、それは互いの信念が同じ方向を向いて
 おればの話。たとえ友でも──信念の赴く方向が違えば、守るものが同
 じでも剣を交えなくてはならないときが必ず来る。だがな、それは裏切
 りではないのだ。必殺の心をもって友の息の根を止めること。それが出
 来るのは自分だけだと信じること。それも…多分友情というものなのだ。
 幼いお前の心には、少々苛烈が過ぎようが」


「………」


十四郎に見据えられ、アーサーは沈黙する。大きな瞳を伏せ、何事かを考えるように膝を握った。ハーロックはそっと溜息をつく。


「2人共言葉が過ぎるな。アーサーくん。男の子は友達を裏切っちゃいけ
 ない。何があっても──絶対に友達に剣を向けてはいけない。ゲオルグ
 は間違っている。今は…その正義を忘れないでいれば良いのだよ」


「は、はい! グレート・ハーロック」


頬を紅潮させて、アーサーは頷いた。十四郎が肩をすくめ、「なーにか」と鳴く。


「天下のハーロックも子供には甘いと見える。優しいだけの理想や甘いだ
 けの正義など何の役にも立たんのであるど。なぁ、澪」


「──…」


澪は応えない。腕を組んで俯いている。表情を覆い隠す長い濃茶の前髪。
零のことを、案じているのだろうか。この後には背信した部下との戦いも待っている。何か言葉をかけてやらねば、とハーロックがその肩に触れようとしたその時。


「………ぐぅ…」


聞こえてきたのは、鼻いびき。耳を澄ませてみれば「カブトムシ…ん、大きい……ム●キング…」などという戯けた寝言までのたもうている。ハーロックは黙ってハンドルを大きく切った。ブレーキの乱れる音。助手席側にGがかかる。

ガードレールの無い道路を越えれば──目の前は巨古木の立ち並ぶ原生林。


 ききぃぃぃぃ…がしゃん!!!


ベンツ型エアカーは見事に横転した。


「ごはッ!!」


「どうわっ!」


「あっ……!!」


「痛たたたたた…ハーロック、何を」



「──…すまない、手が滑った」



澪が防護ガラスに頭をぶつけ、チャイルドシートに縛り付けられた十四郎がつんのめり、アーサーを庇った時夫が後部座席からずり落ちた。
1人無傷のハーロックは、一言詫びてさっさとエアカーから降りる。
時夫とアーサーを引っ張り出し、頭を振っている十四郎を抱き上げた。


「怪我はないか? 大山」


「うむ…大丈夫であるが……どうしたのだハーロック。お前ほどの男が
 運転を誤るなど」


「あぁ…それは」


彼の髪を一撫でし、その肌が冷えぬようにとフードを被せ直してやる。
十四郎は不思議そうにハーロックを見上げ、ハーロックは曖昧に微笑んでみせた。


「っかぁあぁあぁ…今日は頭の厄日かよ」


暫くして、のそのそと澪が這い出てくる。額から一筋だけ血が流れていた。さすがに、眠っている最中に受身を取るのは不可能だったのだろう。「滅茶苦茶するな!」と喚かれて、ハーロックは取り敢えず澪の頭を殴った。みしぃ、と頭蓋骨のぶれる音がする。


「君こそ何がムシ●ングだ! 零くんのことを心配しているのかと思えば
 ……いい加減に不真面目はやめないか!!」


「不真面目も真面目もこれが俺のスタンダードだよ。お前のおかげでゲオ
 ルグの奴と一戦交えることになっちまったし…鋭気を養ってたってのに
 邪魔しやがって」


「嘘をつけ。明らかに昆虫の夢を見ていただろうが。やる気あるのか君は」


「無いよ。馬鹿馬鹿しい。アイツの狙いが俺の命だっていうなら、正面
 から来りゃいくらでも真剣に相手してやったのによ」


悲しいぜ、と大きな瞳を僅かに揺らす。冴え冴えとした月光を吸い込んで、それは泣いているようにも見えた。息子の安否が知れず、信頼をおいた部下に裏切られても、彼は涙を流さない男だ。ハーロックは力を抜いて澪の額に触れてやる。瞼にかかった血を拭ってやれば、仄かに果実酒のような香りがした。


「……出血までさせるつもりはなかったのだが…大丈夫か?」


「あぁはいドウモ。派手な目覚ましに目眩がするぜ。痛ッ、突くな!
 おーい、時夫。絆創膏」


「拭ってやろうと思ったのだが」


呟くと、「お前のは痛い」と心底嫌そうに拒否された。
澪に向き直られ、時夫がひしゃげてしまったトランクから荷物を引っ張り出す作業を中断する。


「ハーロック、貴方不器用なんだからあまり触らないで下さいよ。澪さん、
 絆創膏じゃ無理ですよ。救急セットを出しましょう。アーサー君、怪我
 が無いようなら手伝って頂きたいのですが」


「大丈夫です! 救急セットですね」


ぴょこんと一度敬礼し、アーサーが小さな体をトランクの隙間に滑り込ませた。「他のも出すのだ」と十四郎もトランクに頭を突っ込む。トランクから覗く小さなお尻が2つになった。悲惨な事故現場が何となく可愛らしくなる。


「──しかし、車が使えなくなってしまったのは、痛いな」


こうなれば自分に出来ることなど何も無い。ハーロックは静かに巨木に背を預けて瞠目する。


「……自分でやっといてこの態度ですよ……」


「怖ぇなぁ。マジに怖いですよ時夫さん。いやぁね、海賊って野蛮」


地球正規軍コンビの大きな陰口。ハーロックは細く目を開けた。そもそもはこの可及的事態に弁当喰ったり居眠りこいているのが悪い。海賊が野蛮というのなら、こいつらは不謹慎正規軍だ。ハーロックは聞こえないふりをして十四郎達の作業に目を移す。


「十四郎さん、このトランクはどうしましょう」


「あぁ、それはいらんな。弁当だ。それよりこっちを引っ張り出そう。
 救急セットだ」


「はいっ」


こちらは真面目で可愛らしい。赤十字のついた箱を取り出して時夫に手渡すアーサーの背中を見つめ、ハーロックはそっと十四郎の背後に回る。


「何か手伝うことはあるか?」


「ん? 別に無いのである。うん、いや…このトランクを開けられるか。
 ひしゃげてしまっていてどうにも作業がやりにくい」


「あぁ…これは。出来るかな」


片手で軽く押し上げてみる。が、完全に形の潰れてしまったトランクのドアはちょっとやそっとの力では開きそうもない。
銃を使えば、開けられることは開けられそうだが。


「……壊してしまっては、マズイのだろう?」


「あぁ、中のモノが壊れるのはマズイな」



「ふぅん、ならこうすりゃ良いじゃねぇか」



いつの間にか、澪が背後に回ってきていた。額には大きなガーゼが張られている。時夫の処置の素早さに驚いている間に、澪はハーロックを押し退けてトランクのドアを、ごん、と叩いた。


「中のモン壊さない程度に衝撃与えりゃ開きそうじゃん。──なら!!」


 どんっ!!


澪の拳が、ドアを叩く。テイクバック無しの強い衝撃。澪でなくては放てない一撃だ。ドアが勢い良く跳ね上がった。


 がこんッ…ごすッッ


と、同時に跳ね上がったドアが澪の鼻先に直撃する。「ふがっ」という間抜けな声。感心しかけていた気持ちが、どこか遠くへ飛んでいく。


「……馬鹿だな……」


十四郎が目を細めた。「あぁ、馬鹿だ」とハーロックも応じる。「痛ててて」と澪が顔面を押さえてその場にしゃがみ込む。元部下との決闘を控えているというのに、こんなにもダメージを受けっぱなしで良いものなのだろうか。


「もう少し後先考えて行動しなさいよ。馬鹿」


とどめに時夫の辛辣な言葉。澪が涙目になって顔を上げる。


「って…お前なぁ。ちょっとは上官に同情しろよ。馬鹿とか言ってんだぜ
 あっちの連中。気の利いたフォローとかなぁ。あいてて。さっきから顔
 ばっか打って。本当に馬鹿になっちまうぜ、これじゃあ」


「大丈夫ですよ。人間には限界ってモンがあるんですから」


「あぁ、安心しろ。お前はこれ以上馬鹿にはなれん。この14番目の“エ
 ルダ”、大山十四郎が保障しよう」


偏差値高いチームの容赦のない慰めの言葉。澪は再び顔面を覆って「なに…? 大活躍だったのにこの敗北感」と呟いた。


「あ、あの、格好良かったです中佐!!」


アーサーが必死にフォローする。「アーサーは良い子だなぁ」と澪が、くしゃ、と笑った。


「お前と友達になれたジュニアは幸せモンだぜ。何かアイツ俺と同じ匂い
 がするもんなぁ。友達なら友達のフォローもきっちりしてやるんだぜ」


「──何気に嫌味か。澪のくせに生意気な」


「勝手に私の息子を馬鹿の同類にしないで頂きたいものだ」


「うるさいよ十四郎、ハーロック。それより、こっからどうすんだ? 
 ツッコミ1つに車1台おしゃかにしやがって。ヒッチハイクでもするの
 かよ」


アーサーの頭に手を置いて、澪が立ち上がる。時夫が踏み出し、開いたトランクから澪のトランクだけを取り出した。


「クリスマスのこんな時間に車なんか走ってるわけないでしょう。
 よしんば走っていたとしても…郊外の方には出ないでしょうね。
 と、すれば方法は2つ」


「通りすがりの車を無断拝借…か」


「走っていく、か」


十四郎と澪の言葉が重なった。2人は一度顔を見合わせ、「無断拝借」、「走る」と再び言葉を重ねる。


「無・断・拝・借!!」


「は・し・る!!」


「む」


「は」


「………可及的事態だ」


「承知出来ん。やりやがったら強盗・恐喝の罪で即刻逮捕だ」


「ジョーダンではないぞ!!」


「ジョーダンじゃない!!」


ここまで、かっきり30秒。同時に叫んで睨み合う2人。ハーロックと時夫は「ふぅ」と息をついた。──どっちでも良いのだ。己の付き従う最愛の友の決定なら。


「目的地まで10キロ以上あるのだど! 俺達はともかく子供のアーサー
 について来れるか冷静に考えてはどうだ!!」


「だからといって目の前で犯罪行為を見逃せっちゅーんかい!! 無理だね。
 腐っても連邦正規軍なんだぜ、俺と時夫は」


「口封じをすれば問題あるまい。この大山十四郎、目的のためなら鬼にで
 も死神にでもなろう。弥生に約束したのだ。敏郎を無事に連れ帰ると
 な! それが弥生の伴侶である俺の役目だ!!」


「死神にも鬼にもなるのはてめぇの勝手だ! だが、そのためにこの地球
 上の無辜の連中に手出しすることは許せねぇ!! それが、地球連邦第58
 地区陸軍中佐・特殊部隊『猛』大隊司令ウォーリアス・澪の仕事だから
 な!」


「我が子の危機にさえ貴様は肩書きや階級が無ければナニも出来んのか
 ──? ふん、つまらん政府のイヌに成り下がったものだな。親友よ」


「んだとぉ?! てめぇこそ、感情もナニもねぇデジタル人間のくせに上等
 なクチきくじゃねぇか。あぁ? 親友“エルダ”さまよぉ」


互いに吐き捨てる。ぎり、と双眸に殺気が燈った。雷鎚にも似た闘気を立ち昇らせて構える澪と、今夜の月のように静かに刀の柄に手をかける十四郎。

陶酔するような光景だ。ハーロックは思わず恍惚となった。2人共、何と美しく愛おしい“気”を放つのだろう。あの間に入って双方に剣を向けてみたい。狂気のような衝動にかられる。


澪を──…この剣で貫き殺してみたい。
十四郎に──…この心臓を貫き殺されてみたい。

その芳しさに一瞬我を忘れる。ハーロックの名を持って、終末の戦士として生まれ落ちたものの、これが、性か。



「2人共! 止めて下さい!!」



けれどそんな空想も、アーサーの悲鳴のような声で儚く途切れた。軽い足音を立ててアーサーが2人の間に入る。あの、殺気の中に。まるで畏れを知らない愚者のように。


「俺…走りますから! 足手纏いだって知ってます。だけど、俺だって
 ハーロックを助けたい!! 先に行かれても諦めません。…──ッ、だか
 ら!!」


大きな瞳から次から次へと涙が零れて、落ちる。幼く無垢なあの少年にはわからないのだ。この世に最強の名を有する存在はたった1人でこと足りるということが。そして──それに相応しい者ほどその真実を識っているということが。

そして、実力が伯仲していればいるほど、互いに想いあい、手を取り合い。相手を大切に想えば想うほど。心が通えば通うほどに。

原型も留めぬほどに引き裂きたくなる、凶暴なほどの友愛が。


「瞳孔…開いてますよ、ハーロック」


時夫に囁かれて、慌てて残存している右目を押さえる。気付けば十四郎からも澪からも、あの陶然とするような殺気が消えていた。少し、惜しくなる。

十四郎の、
澪の、

本気が見られると思ったのに。


「……どうやら、今後の対策は決定したようだな」


「えぇ。少々疲れそうですけどね」


時夫が、こき、と肩を鳴らす。ハーロックは彼の薄緑色の瞳を見つめた。
──惜しい。彼だって、期待と欲に瞳を濡らしている。

澪の、
十四郎の、

本気が見られると思ったのに。


紛れもなく同じ空想に耽ったに違いない。


「──…やっぱり、走ると思うかね」


「走るでしょうねぇ。アーサーくんの涙には、力がありますよ。澪さんは
 元より大山だって、あの子の純粋な気持ちは踏み躙れません」


「だろうな」


十四郎は諦めたような表情をして刀をマントの中に納めた。澪も、困ったように膝を折ってアーサーの涙を拭ってやっている。


「どっちが…勝ったと思う?」


わかりきった言葉で問うてみる。時夫は眉1つ動かさずに「澪さんでしょう」と応えた。


「現役時代ならともかく、病床の大山があの人の相手になるとは思えませ
 ん。あの人──強いんですよ」


「そうか…? 私は大山が勝ったと思うがね。彼は、澪のように情に流さ
れはしないから。とどめを刺すその時は、きっと躊躇いなく剣を振りぬ
けるだろうさ」


あの端整な首に、月光のような一撃が走る。そう思うと、たまらなくなる。
十四郎の美しい剣速なら、きっと澪の容貌を損ねることなく落とせるだろう。
雷鎚にも似た闘気を立ち昇らせながら。果実酒の香りがする血液を、この夜に限界まで吹き上げて。

地球最後の守護闘神“ラストウォーリア・レイ”が。
絶命、するところを見たかった。


「あの人が殺されるようなことになったら…俺がアンタ達を殺しますよ」


淡々と時夫が言う。そうして「俺、実は結構強いですよ」とチェシャ猫のように笑った。


「それは素晴らしいね、時夫。私もその時は全力でお相手しよう」


笑う。愛しい、かけがえのない竹馬の友に。



「なーんかアイツら気持ち悪くね? なに笑っとんねんって感じで」


「うーん、気持ち悪いというのがよくわからんであるからなぁ」



澪と十四郎がこちらに向かって来る気配。ハーロックは「決まったかね」と悠然として2人を迎えた。













●書いている本人だけが楽しいシステムだという(笑)。



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