Happy Days・6
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★★★ サイレントカーは森を抜け、けれど確実に市街から離れた人気のない場所へと向かっていた。4WDサイズの大型車だが、見張りの者と共に後部座席に押し込まれたのでは子供といえど少々窮屈だ。俺は、いい加減尻が痛いので何とか体勢を変えようと狭いスペースで身体を捩じらせてみる。 途端、すい、と右隣からの圧迫感が消えた。ハーロックが立ち上がって助手席に座るゲオルグ(階級は軍曹だそうだ)の顔を覗き込んだのだ。 「窮屈だよ、ゲオルグ。別に逃げないから窓際ののオジさん達を後ろの車に 乗せてくれよ。向こうの方が空いてるだろ」 会って数時間の相手を既にファーストネームで呼び捨てである。しかも敵だというのにもはや親しい友人のようなこの扱い。俺には絶対に真似出来ない。 「はは。はっきりと言いやがるな坊ちゃん。でもまぁ、もう少しだから我慢 してくれ。子供だからと優しくするのは、坊ちゃん相手に限り少々危険だ と思えるからな」 「それはとても正しい判断だと思うよ。ゲオルグはプロだね」 でもわからないなぁ、とハーロックは座席に戻る。ぎゅう、と俺の右隣に圧迫感が戻った。ハーロックは「やっぱり狭い」と口を尖らせ、傍らに座る敏郎を抱き寄せる。 「トチロー、抱っこしても良い? そうすると少しは窮屈じゃなくなる」 「ん」 敏郎は素直にハーロックにしがみつく。小さな敏郎1人分のスペースが空き、俺とハーロックは「ふぅ」と固まっていた肩や腿から力を抜いた。 「しかし…良いのか? 敏郎。抱っこなんて」 「良い」 同年代の男の膝の上で、敏郎は特に気にする様子もなく頷く。帽子を取り、もぞもぞと座りやすい形に収まろうとするその仕草は、まさに小動物そのものだった。俺は、ほんの少しハーロックが羨ましくなる。車の中は暖房が効いているが、森の中を彷徨って冷えた身体は、中々体温が戻らない。 「ハーロック、もし疲れたら代わっても良いぞ。俺の方が年上なんだから」 ハーロックの腕の中で丸くなる敏郎は、とても温かそうだ。俺はどきどきしながら提案してみるが、ハーロックはあっさりと首を横に振った。 「いいよ別に。トチローは軽いもの。零が気を遣うことはないさ」 「別に気を遣ってるわけじゃないんだけど。膝だって、俺の方が大きいし、 乗りやすいと思うな」 「いいって、このままで大丈夫だから」 「そんなこと言わずに」 「良いの!! トチローだって俺の方が良いさ。そうだろ」 「……う」 狭い車内で敏郎を奪い合う俺達。「いい加減にしろ!」と窓際に座っていた兵士が声を荒げた。俺は「わかったよ」と正面に向き直る。 「でもハーロック、さっき何を言いかけたんだ? わからないって、何が?」 「あぁ。ゲオルグがね、見たところプロの兵隊なのに、こそこそと人の庭に 忍び込むようなマネをする。プロなら何だって堂々としなくちゃ。泥棒 みたいに陰に隠れるのは男の仕事じゃない。そうだろ?」 「勿論だとも」 ゲオルグが、に、と笑う。好意を示しているようだが、厳つい顔はますます怖く見えた。 「俺だって望んでこそこそとしてたワケじゃない。だが時に自分の目的のた めにはやむを得ず不本意な行動を取ることもある。グレート・ハーロック の庭に侵入したのも、こうしてお前さん達をご招待したのも、俺の生涯を 賭けた目的のため」 「目的? どんな?」 ハーロックが楽しそうに敏郎を抱き上げ、中腰になる。敏郎が、ぎゅ、と ことさらハーロックにしがみついた。俺は慌てて手を出してやる。 「はっはっはっ、それはおいおいな。とにかく──」 車が、止まった。後続車のヘッドライトが消える。「降りろ」と突かれて、俺達は半ば追い出されるようにサイレント・カーから降りた。 足元には、濡れた土の感触。冷えた夜気。乾燥して鼻の中まで痛くなる。慣れたように歩いていく兵士の1人に背中を押されながら、俺は自分達が連行される建物を仰ぎ見た。 電気が全く通っていない、古い建物。沢山の窓が建物の上部を囲うように並んでいる。──人の住んでいる気配が無い。それに、最近人が使っていた様子も。 廃工場だ。何を作っていたのだろう。看板を探したが、全て取り外されたあとだった。 有刺鉄線の張られた門が2人の兵士によって開かれ、俺達は廃工場の敷地内に招き入れられる。 「良い隠れ家だろう? グレート・ハーロックは宇宙の戦士。暫く帰らぬう ちに自分の膝元である街にこんなモノが出来ているなんて予想だにしない だろうさ」 ゲオルグがハーロックの肩に手を置いた。「ふぅん」とハーロックは敏郎を優しく地面に降ろしてやりながら目を細める。 「お父さまが暫く帰って来てないのを知ってるんだ。ゲオルグは、陸軍だって零が 言ってたけど、陸軍の下級将校程度じゃお父さまがいつ宇宙にいて、いつ戻って 来るかなんて細かい情報、入らないよね。ゲオルグは宇宙機動軍の人と仲が良いん だ?」 「──…力技だけじゃねぇな、お坊ちゃん」 「力だけで世渡り出来ると思う? ゲオルグ」 声を堅くした巨体の兵士にも動じない。ハーロックが今、どんな顔をしているか、俺には容易に想像出来た。笑っているのだ。まだ6歳の──あどけない少女のような顔立ちで。 普通じゃない。俺は僅かに眉を寄せる。自分に意気地が無いのかもしれない。けれど、それを差し引いても先程からのハーロックの反応。あれが、幼く未熟な子供のモノであるものか。 俺は見る。ゲオルグを見上げるハーロックの横顔。大きな鳶色の瞳が、澄んだ夜空の満月を映して金色に。 ──…金色? そんな馬鹿な。昼間に見た彼の瞳は、確かに。 「……ゼロ」 気付けば、敏郎が俺を見上げていた。小さな瞳の中に、戸惑うような色が見える。 不安そうな顔をして、負の感情を伝染させてはいけない。俺は、「平気だよ」とにっこり笑った。 「ちょっと、酸欠になっただけだ。何だかとんでもないことになっちゃった けど、俺、結構武術の成績は良いし。いざとなったら、何とかなるさ」 「…平気?」 「平気だ。敏郎は何も心配しなくて良いよ。何かあっても、俺と…ハーロッ クで戦うから。頼れそうなところを、見せてもらったしな」 そう、小さく弱いものを守ることが、男としての正義。男としての本領なのだ。おめおめとここまで連れてこられた分、お父さまに何か胸を張れるようなことをしておかねば。俺は優しく敏郎の手を握った。少し冷たい手。握り返してくる力の何と果敢ないことか。お父さまのことが無くたって、この子は守ろうと決意を新たにする。 「とにかく、だ。中に入って一息ついたらお前らのオヤジさん達に教えて やらなくちゃな。可愛いお坊ちゃん達をこちらにご招待したことをな」 ゲオルグが、俺の肩を掴むようにして工場内に足を入れた。 「だから、ご招待されてやったんだってば」 ハーロックが、やけに不遜に応えた。敏郎が「ハーロック」と静かに嗜める。 がごぉぉぉん、と重厚な音を立ててしまる鉄の扉を境に、俺達と外界が遮断された。 ★★★ ピピピピピピ……。 弥生がテーラの連れてきたメイド達によって丁寧に運ばれて行ったあとも、 澪の懐から衛生携帯の呼び出し音が続いていた。ぱち、と暖炉の炭が爆ぜる音。「暫く任せた」という言葉を残して、参謀である十四郎も時夫も書斎に移動してしまっていた。 リビングに、緊張の沈黙が流れた。 「……どうする、おい」 口火を切ったのは澪だった。恐る恐る懐から銀色の携帯電話を取り出して見せる。 「出て良いと思うか? 俺直通のコードにかけて来てるってことは、相手は 委員会の連中か──俺の部下か。どちらにせよ俺が年末の会議をサボって 来ているのがバレてしまったわけですが」 「澪、仕事サボって遊びに来てたのか」 グレート・ハーロックは溜息をついた。てっきり子供達を拉致した者からの 電話だと思ったのに。休暇届けくらい、きちんと提出してから来て欲しいものである。 「紙1枚提出すれば済むことだろう。どうして後々面倒になるようなことを 敢えてするのかね?」 「馬鹿だな。このサボって自分だけ遊んでる感が良いんじゃねぇか。みんな が馬鹿みたいに円卓囲んで会議しているだろうこの時に、自分だけ大自然 の中に建つ城でクリスマス。ドキドキしねぇ?」 「……委員長に引き渡して差し上げよう」 ひひひ、と笑う澪から電話を取り上げ、ハーロックは通話ボタンを押した。──自分の息子の誘拐事件が起きたというのに、どこまで能天気なのだ。 この男は。 『──…澪中佐だな?』 「!!」 電話の向こうから聞こえてきたのは、笑いを含んだ男の声。会議を無断欠席した上官や部下を咎めるような声音では、まるでない。 これは──そう、どちらかというと己の優位を相手に知らしめたいような。 ハーロックは無言のまま澪に電話を渡した。アーサーに目配せすると、彼は静かに立ち上がり、素早くリビングに設置してある電話を抱えて戻ってくる。 賢い子だ。ハーロックは彼に優しく微笑みかけ、返す手で澪の携帯からモジュールを引き出して電話のスピーカーに繋ぎ、録音ボタンを押す。 「書斎の人達を呼んで来ます」とアーサーは音を立てずに退出していった。ファルケ・キントは頼もしい友を得たものだ、とハーロックは少し呑気に思う。 「澪」 ローテーブルに置いた電話のスピーカーから向こうの息使いまでもが聞こえることを確認して、ハーロックは澪を見上げる。いつもふざけた表情ばかりする男が──珍しく元来の精悍な顔つきに戻っていた。『地球連邦陸軍中佐、ウォーリアス・澪だな』と再度、楽しそうな男の声がスピーカーから漏れる。 妙に、声が反響している。どこか広いところからかけているのか、とハーロックは耳を澄ませた。 「澪、なるべく会話を引き伸ばしてくれ。その方が相手の情報を得やすい」 「……」 真剣な面持ちのまま、頷く澪。子供達の安否がかかっているかもしれないのだ。ハーロックも気を引き締めてスピーカーに向かったその時。 「澪サンチガウヨ〜。ボク、アイジンノ、フェルナンデス言イマス」 物凄く真面目な顔のまま、澪が素っ頓狂な声を出した。ハーロックは立ち上がり、すかさず手近にあったブランデーの瓶で旧友の頭をブン殴る。無言のまま、澪は前のめりに倒れ伏した。ハーロックは落ちた携帯を拾い上げて喉の調子を整え、改めてソファに座り直す。それも、なるべくだらしなく。 「あぁ、失礼。愛人のフェルナンデスが勝手な真似を。委員長か? “俺” は自主休暇中なんだが…何か用か」 携帯から聞こえる“声”というものは不鮮明で、得てして声紋が崩れやすい。例え最新式の衛生携帯であっても、移動する衛星から電波を得るのだから8割方個人を特定するのには不十分な情報にしかならないのだ。それならば、グレート・ハーロックとその足元に転がっている旧友と、入れ替わっても何の不備も無いはず。否、むしろ電話の持ち主を正直に出す方が不備まみれである。 何とか十四郎達が戻ってくるまでは時間を稼がなくては。 ハーロックは眦をきつくして相手の反応を待った。『くっくっくっ』と心底楽しそうに男が笑う。 『自主休暇に愛人ね……アンタの奇行は日常茶飯事だが、男の愛人がいた なんて知らなかったな』 「そうか。なら憶えておきな。このウォーリアス・澪さまは、はっきり 言って男色だ。マジホモだ。ハードゲイだ。生まれてこの方、女に興味 を持ったことがない。好みのタイプはラテン系マッチョだ。K−1や PRIDEを観戦すると心がときめく。OK?」 澪のついた嘘の辻褄合わせと、若干の意趣返しも込めて、ハーロックは大嘘をついた。向こうで、相手が受話器を離して大笑いしているのが聞こえる。 これで許してやるか、と、ハーロックは後頭部にたんこぶを作って倒れている澪を見下ろした。 『くっ…くくっ。良いぜ。俺はアンタの大ファンなんだ。性癖程度でアンタ に対する評価は変わらないぜ』 「それはそれは熱烈なラブコールだ」 知ってる、のだ。澪はどうなのかわからないが、少なくとも相手は澪のことを知っている。しかも彼の奇行を日常茶飯事的に目にしているとなると──これは。 「俺の部下に──イタズラ電話をかけてくるようなユーモアのある奴が いたっけか? 俺の“タケル”に」 『これはユーモアなんかじゃないぜ中佐。ところで、アンタ今どこに いるんだ。可愛い息子さんが門限を破っちゃいないかい?』 当たりだ。男の声音が一変する。電話の相手は、澪の直属部隊“猛”の人間だ。連邦陸軍の中に裏切り者がいる。子供達の誘拐は、澪の失脚を狙ってのことだろうか。だとすれば、零以外の子供達には人質の価値が無い。 まさか、もう。思わず蒼褪めたハーロックの前に、ようやく十四郎と時夫が現れる。2人は音を立てないようにソファに腰掛け、倒れている澪を見つけて、小さく吹き出した。 「また何かしでかしたんですか? この人」 「このブランデーの瓶で殴ったのか。お前、時々オソロシイな」 「それどころじゃない。時夫、大山」 「あぁ、わかっているさ。こっちも色々と判ったど」 「えぇ、とにかく──子供達の無事を確認して下さい」 やはり、2人がいると頼もしい。ハーロックは気を取り直し、「ふぅん」といかにも澪のように無関心を装う。 「で? 要求は何だ。もっとはっきり言えば良いじゃないか。あいつ、お前 のところで世話になってるんだろ」 『ふふん、察しが良いな。そう言ってもらえれば、話は早い』 あの子供達は丁重にご招待申し上げている──男は恭しくそう告げてきた。同時に、電話越しに聞こえる「お父さま!」の声。 ──ファルケ・キント。どこか怪我をしている様子もない元気な声だ。取り敢えずは全員無事と考えても良い。安堵して、「ふぅん」とハーロックは足を組み直す。 「子供達? 俺に子供は1人きりだぜ」 『おとぼけは効かないぜ中佐。アンタの右腕がそうしているように、俺達も スピーカーに繋いでる。筒抜けだぜ、お仲間達の声はさ』 「──そうかい」 ハーロックは親友達を見回す。不敵な笑みを浮かべて応える時夫と十四郎。気絶しっぱなしの澪をブーツの爪先で小突くと、「うぅん」と唸って痙攣する。 「それなら…話は早いねぇ。俺と時夫、グレート・ハーロックとDr大山 を敵に回してただで済むと思うのかい」 『いつまでも、アンタ達が最強じゃないぜ』 「へぇ…興味深いな。特殊な訓練法でも編み出したか?」 妙に自信ありげな声。十四郎がマントの下から特殊仕様のモバイルを取り出した。ハッキングも人物照合も物体のスキャニングもお手の物。十四郎が手自ら組み立てたモンスターマシンである。「声紋が採れますか」と時夫が彼の耳元に囁く。 「携帯電話の声なんて、殆ど相手の素性を知る手がかりになりませんよ。 そんなの連邦軍の諜報部だって」 「なーにか。一体俺を誰だと思っているのかね。しかもお前らの地区は 揃いも揃って腑抜けばかりだ。純血主義だが身分制知らないが、軍で 地位と名誉が得られるのは元王族や貴族だけ。移民や平民はどれだけ 才能があっても認められん。お前らの科学力など、最先端から4世紀は 遅れとる」 「耳が痛いですね」 時夫が苦笑する。十四郎は手早くケーブルを電話にセットし、何事か作業を始めた。 『まぁそんなモンさ。力でなら、我々はアンタ達に勝利する自信がある。 だが、14番目の“エルダ”を侮るつもりはない。例え…そのガキがグレー ト・ハーロックのお坊ちゃんにしがみついている頼りないカワイコちゃん でもな』 「へぇ、大山の子はカワイコちゃんかい。俺の息子はさぞかし騎士道精神を 発揮しているだろうな?」 『あぁ、無謀で勇敢なお坊ちゃんとは正反対だ。カワイコちゃんを優しく カヴァーしてる。正真正銘ウォーリアス家のナイトさまだ』 「成程、鼻が高いぜ。」 私のファルケ・キントだって、正真正銘ハーロック家の海賊騎士だとも。心の中で抗議して、ハーロックは息を吸い込んだ。 「それで? お前達の条件は何だ。お互い、早く片付けてしまった方が良い だろう。今夜はイブだ。晩餐の時間も過ぎてしまっている」 『勿論だ。イブというのは重要な日だ。子供達にサンタがやって来るまたと ない日だ。俺も子供は好きでね。特に、勇敢で無謀で、好奇心のある子供 を見ると是非ともサンタに合わせてやりたくなる。良いだろう、こちらの 条件を言うぜ』 「あぁ」 時夫がスピーカーのボリュームを上げる。十四郎は、ただ一身にキーボードを叩いている。 『まず──俺達のボスの条件だ。グレート・ハーロックに「例のアンプルを 渡せ。そして、忘れろ」。俺達のボスは少々臆病でね。直接彼に死んでくれとは 言えないようだ。我々に暗殺を依頼しておいて、ね』 「素晴らしい上司をお持ちのようだな。俺とはまるで正反対」 『くっくっくっ。アンタはアイツみたいなクズとは違うさ。そして、もう 1つ。これは俺の個人的なお願いなんだがね、中佐』 「言ってみな。可愛い元部下のお願い事だ」 澪は気絶中。突いてみたが、ちょっと強くツッコミ過ぎたようだ。慣れないことはするもんじゃないな、と、ハーロックは反省する。 『俺と──戦ってくれよ中佐。戦って、アンタを殺したい。それが、俺の 望みだ。わかるだろ? 男なら』 電話越しに、愛の告白を聞いたような気分だった。 「──無論」 ハーロックは首肯する。大ファンなんだ、と男は言った。例え男色であろうとも、澪への評価は変わらない、とも。男は、澪の力を認めている。だからこその背反か。ハーロックにはよく理解出来る。 男には──越えなくてはならない男がいるのだ。絶対に、越えなくてはならない相手が。 澪は、そう想うことに相応しい男だ。力を求める男が、その最終地点として目指すに相応しい戦士だ。彼の強さを目の当たりにした男なら、誰だってそう思うだろう。 「よく──解かる。それが男というものだ。だが悲しいな。お前の強さは 本物じゃあない。ハーロックから聞いたぜ。処分されたはずの軍用ドラッ グ『ハイパードライブ』、それがお前達の誇る力の正体だ」 『あの薬に選ばれた人間。それが次代の最強を名乗るのさ。グレート・ハー ロックに伝えな。アンタのお坊ちゃんは実に可愛い。傲慢で、不遜で、 勇敢で。才能も実力もある。素晴らしい子供だ』 「──…まぁ」 『あの子は、我々と同じく次代の戦士になる資格がある。是非、ハイパー ドライブをプレゼントしたい。俺を、サンタにしてくれるかね、と』 「………ッ!!」 思わず、立ち上がった。勢い余って澪を踏んづける。「う」と澪が低く唸る。 「わかったよ。ごたごた言わずに取引に応じよう。時間と場所は」 『今夜の0時に。場所は──もう逆探知出来ているんだろう?』 「えぇ、出来ていますよ。地球連邦陸軍“猛”部隊軍曹、ゲオルグ・ノイマ イヤー」 時夫がハーロックの肩越しに告げる。男が豪快に哄笑した。 『素晴らしい! 中尉、アンタは最高の右腕だ。俺が中佐に勝ったあかつき には、アンタを俺の参謀にしたいね』 「良いですよ。ここで負けるような男なら、こちらから願い下げですからね」 『素晴らしい!! 本当に素晴らしいよ、理想の答えだ。男のね』 それでは0時に。鼻歌交じりにそう言って。 ぶつん、とそれきり通話が切れた。 |
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●澪さん殺人事件(死んでませんが)。 |
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