死と乙女・5





★★★


「特別恩赦ぁ?」


敏郎が素っ頓狂な声を上げた。ワープ中の超異空間。今まで撮り溜めしておいたサ
テライトニュースを確認しているその最中だ。

俺は驚いて思わず操舵輪を傾ける。不安定な空間で、艦が斜めに傾いだ。床で遊ん
でいたヤッタランとトリがころころと転がる。


「痛いでジュニア。気をつけぇや」


「クェェ!!」



「…ごめん。ちょっとビックリしたもんで」


頭を掻き掻き詫びながら、俺は「うむむ」と唸る親友の背中を見つめる。いつも冷
静な敏郎。彼があんな風に声を上げるのは珍しい。──それにしてもこの舵、ちょっ
と遊びが多いよな。と俺は一度に複数の思考を巡らせる。


「どうしたんだトチロー。急ぎのニュースじゃないのなら、ちょっと舵見てくれる? 
 これ、遊びが多くなっててさ」


「馬鹿者。火急でもないのに俺が声を荒げるものか。おかしなニュースだ。メイン
 スクリーンに映そう。見れ、全員注目するのだ」


小さな手が目にも留まらない速さでコントロールパネルを操作する。ヤッタランと
トリを助け起こして、俺は頭上のスクリーンを仰いだ。



『──以上のことから、かねてより負傷中のためその軍事裁判を延期されていた戦
 犯ウォーリアス・零中将は、銀河総督府の特別恩赦によりその身柄を再度地球連邦
 の将官待遇として、釈放されることが決定いたしました。なお──』



機械化人の女性アナウンサーが淡々と告げるニュース。「一年前のものだ」と敏郎が
唇を突き出す。


「地球最後の生身の司令官に特別恩赦。理由としては地球との講和条約がどうのと
 か、過去の戦歴がどうのとかのたもうておるが──どう思うね? 諸君」


「…命が助かったんなら、儲けモンじゃないか? っていうかいつの間に一年? 
 俺、ついこの間22になったばっかなんだけど。地球年齢ならもう23? 慣れない
 なぁ。この浦島現象」


「なんや不自然やなぁ。あの冷酷非情な機械化帝国が侵略した国の…それも生身の
 ままの司令官を生かしておくやなんて」


「ヤッタラン正解。ハーロック、お前はあまりにもアホなのであとで「私はアホで
 す」という書き取りを一万回するように。っていうか、慣れろよワープの原理くら
 い。お前、俺より航海歴長いのであろうが」


呆れたように息をつき、敏郎が顎を擦る。「一万回は嫌だなぁ」と俺も倣って顎を擦っ
た。


「で? トチローは何が引っかかってるんだ? 確かにヤッタランの言うことも
 もっともだけどさ。官位を下げるわけでなし、軍籍を剥奪するでなし…中将のままっ
 てことは、引き続き艦隊司令の権限を持つってことだ。飼い殺しってわけでもなさ
 そうだぞ」


「飼い殺しの方があるいは良かったのかもしれんどハーロック」


敏郎がスクリーンを見上げる。引き続き流れているニュース映像。
過去のものだろうか。機械化人兵に囲まれて、傷ついた艦から下ろされている彼の
姿。カメラが遠いため観辛いが、確かに負傷しているようだった。突き飛ばされて
も自分の身を支えられないほどの重傷。崩れた身体を、髪を引かれて持ち上げられ
る。


「酷いこと、する」


同じ地球人として正視に耐えかねる。俺が目をそらした瞬間に、また映像が入れ替
わった。今度は最近のものだろうか。隠し撮りと思しき画像の荒さとノイズの多さ
だったか、かろうじて彼の姿を視認出来る。

監視の中、誠実そうな機械化人医師の支えを受けてリハビリらしき運動に従事する
姿。一瞬アップになったその横顔に、俺は僅かな違和感を覚えた。


「……?」


記憶の中の、あのうっすらとした記憶の中の彼の姿。戸惑うような、泣いているよ
うなあの横顔。


「……あれ?」


ノイズ交じりのスクリーンに映る『彼』。戦う意志を秘めた目をしてる。柘榴石のよ
うな瞳。膝をついて、立ち上がるその姿の力強さ。別人かと思うほどだ。

あの時の。俺が『約束』を交わしたあの時の彼は。


争うことを厭うような目をしていた。白い墓碑に蝋燭を灯して声も涙もなく泣いて
いた。空の棺に還ることを──祈ってた。


確かに年月は経っている。状況も相当にへヴィなものだったろう。けれど、人間の
本質が、そんなにも容易く変質するだろうか。

俺は眉を顰めた。これは、この姿は俺の記憶の中の彼ではない。どちらかといえば
記憶と呼ぶにはあまりにも明瞭に姿を現す彼の父、ウォーリアス・澪のそれに近い
ような。



「ふん。それにしても──似ておるな」


敏郎が呟く。似てる、というのはウォーリアス・澪にか。俺も同じ印象を受けたと
俺が言おうと口を開きかけた瞬間、敏郎の鼻の穴がぷくと膨らむ。


「くふふ。似ておるではないか。お前もそうだがウォーリアス・澪の息子も相当だ
 な。それも輪をかけて美しい。親父が撮った澪の写真はどれも勇猛果敢で天まで届
 くような馬鹿写真ばかりだったが…あの上品な動きを見ろ。膝をついてなお高潔な。
 差し伸べられた手を取るときの微笑のなんと清廉な。くふふ…グレート・ハーロッ
 クの若き頃を彷彿とさせるではないか。美しい。想像以上に美しいどウォーリアス・
 零!!」


ディスクに保存しておこう。生で見るのが楽しみであるなぁぐふふふふと邪悪な顔
をしてDVD−ROMの準備をしている。「あのね」と、俺はぐわしと音を立てて親友
の頭を掴んだ。


「何言ってんだよ。お前。つーか治せよそのミーハー癖!! ちょっと顔の綺麗なの見
 るとすぐそれだ。顔なんてな、皮一枚剥がせばみんな同じだ。人体模型の太郎くん
 だ! 目を覚ませ目を」


「目ならとっくに覚めておる。チカメではあるがな。大体お前は皮の大切さを知ら
 ぬのだ。饅頭に皮がなかったら? 餃子に皮がなかったら? ミートパイにパイ
 シートがなかったら? 中身だだ漏れであろうが馬鹿め!!」


「馬鹿はお前だ! 何度も言うけどうちの親父はお前が思ってるほどピュアくない
 ぞ。天然ボケなところもあるがそれ以上に腹黒いとこもあったからな!! どうせ愛で
 るなら俺にしなさい。俺だってハンサムだし、勇敢だし、清廉潔白だし、高潔だし 
 …──」


「自分で自分のことをハンサムとか言う奴は、美人の枠内には入れないのだ!! これ
 が宇宙の大鉄則である!!」


頭掴まれても偉そうな親友。「この上なく下らねぇ鉄則!!」と、俺は思い切りその身
体をぶん投げてやった。が、敵もさるもの。ふわりと中空で身を翻す。


「ふん、まだまだであるなハーロック。丁度良い。機械化人どもと戦うにあたって、
 お前のサーベルはつい先日新調したばかり。微調整してやろう。お前が俺から一本
 取れたら美しいものを愛でる癖、どうにか控えてやろうではないか。来い!!」


「望むところだ! 今日こそ友愛・努力・勝利によってお前の悪癖を矯正してやる。
 真の男っていうのは顔じゃないこと思い知ると良いよ!!」



「…友愛・努力・勝利って…少年漫画の主人公やあるまいし」



冷静なヤッタランの嘆息。少年漫画の主人公だよ、これでも。と俺は幼馴染みの背
中に呟く。「どうした来ないか」と敏郎が刀を抜いた。


「それでは俺からいってやろう。嘶け『燦天我無限』!!」


「どこからでも来るが良い! 駆けろ『ユグドラシル』!」



ぎぃぃぃぃぃんと触れ合う刀身が鳴った。

地球の敗北を知り、敏郎が改良してくれた俺の重力サーベル『ユグドラシル』。漆黒
の刀身に散りばめられた精神エネルギー増幅特性を持つ特殊鉱石。敏郎の愛刀『燦
天我無限』と切り結ぶたびに紫色の光を引いて星のように煌く。


「そういやトチローはん。地球着いたら戦う前にな、海賊島寄ってもええかな」


背後で熾烈な戦いが繰り広げられているというのに、ヤッタラン以下クルー達は冷
静なものである。体重を乗せた斬撃を凄まじい速さで繰り出しながら「良いよ」と
敏郎が応える。


「地球に着くまでに俺達の主観時間で一週間──道中随分機械化人どもの戦艦に邪
 魔されてきたからな。機関部はともかく装甲への損傷がやや気になる数値に達して
 おる。補強せねばな」


「あ、あと舵甘いよ。舵」


敏郎の動き。目視するだけで精一杯だ。やや押されながらも、俺は軽い口調は崩さ
ない。サーベルは苦手でもこのくらいの余裕は出るようになったのだ。


「うむ、後で見てやろう。しかしハーロックよ。地球までの道中、我々の主観時間
 経過で一週間程度か──多過ぎたと思わんか?」


「何が」


「機械化人どもとの交戦だ。無論、奴らの輸送船を俺達が自主的に襲ったこともあ
 る。だが…その報復にしても、だ。連中の動きは不自然かつ規則的であった。そう
 は思わんか」


「不自然で…規則的、ね」


柄に力を込めてみる。重力磁場を操作するでなく、驚くほど軽く、刀身は光の尾を
描いて敏郎の体を吹っ飛ばした。「考えてもみろ」と敏郎は悠然と舵の上に一本足で
立つ。


「大きなワープホールさえ確保出来れば本来このような時差など生じなかったのだ。
 それを、小さなものを転々とし、戦闘による物資の不足を補うために中継地点を幾
 つも必要としたため俺達の主観時間経過と地球での時間経過に一年もの誤差が生じ
 た。何故俺達が大きなホールを確保出来なかったか? それは」


「機械化人の戦艦がことごとく邪魔してくれたからだろ。ここぞと思うようなとこ
 ろに艦隊配備しやがって。おまけにわざわざ俺達の目に触れるように『例のモノ』
 を積んだ輸送船がうろつき回る。イライラしたよなぁ、この一週間」


再び、床を蹴って鍔競り合う。敏郎の姿が視界から消えた。背後だ! そう思った
瞬間、項に感じる冷たい風。俺は身を捻って剣先を突き出した。

ぎぃぃぃぃん……ッ。艦橋に、銀と紫の火花が散る。



「──それが、仕組まれたものであったとしたら…どうだ?」


「仕組まれた、もの?」


「奴らの目的は何であると思う」


ふわりと敏郎のポンチョの端が俺の瞼を掠った。薙ぎ払い、体勢を立て直して俺は
敏郎の言葉を考える。


「…そりゃ、俺達の命なんじゃないかな。親父の代からの因縁だし。何せ機械化帝
 国地球外銀河総督府の背後にいるのは、あの」


「『闇の女王』……。そして鋼鉄の血と肉を持つその走狗。機械化人など…ラー・ア
 ンドロメダ・プロメシューム率いる機械化帝国など、哀れな犠牲者の一部に過ぎぬ」


「だね」


三度重なり合う刀身。幾度も煌き、斬撃の瞬きを残して俺と敏郎は距離を取る。


「そして…これはエメラルダスからの情報であるのだが、此度の地球侵略に『セン
 チュリオン』の一人が関わっておるとのこと。それも、『ヘル』の名を持つ女がな」


「『ヘル』? ヘルって、まさかヘル・マザリア?!」


地獄の聖母騎士の名を持つ女戦士。その実力は宇宙に五指ほどしか数えられぬハ
イ・マスター・クラスとも言われている。


『闇の女王』に従う最強の剣。それが。


「否。ヘル・マザリアは正当なる潔白の騎士。侵略戦争などには姿を見せぬ。詳し
 くはわからんが出てきているのは彼女の妹だそうだ。ヘル・マザリアとは対照的に
 血と戦と残虐を好む冥府の女。その名は──ヘル・マティア!!」


「ヘル・マティア……」



──『ヘル』の名を持つ女は『ウォーリアス』の敵。


かつて、親父から聞いた言葉が耳に戻る。意味はよくわからない。けれど、聞いた
ときには何故か禍々しさに胸をつまれた。


「そのヘル・マティアが零の恩赦に一役かっていると?」


「可能性は、ある。と、いうより銀河総督府が彼を生かしておく理由など他に考え
 つかん」


由々しきことであるど──鋭い一撃を繰り出しながら、敏郎がちらりとメインスク
リーンを仰いだ。俺もつられて視線を同じくする。零の横顔。名前を知ったのはたっ
た一週間前だ。ぜろ、と口の中で呟いてみる。きっと助けを求めていた。この手は
間に合うだろうかと考える。

必ず行くと『約束』したのに。


「かつてグレート・ハーロックも言っておったな。『ヘル』の名を持つ女は『ウォー
 リアス』の敵。意味はよくわからんが…グレート・ハーロックが言うのなら、それ
 は確かなことであろう。だが疑問が残るではないか。敵というのなら何故生かして
 おく? 処刑するのが得策であったろうに。軍籍も剥奪せず、かといって低い地位
 に落として飼い殺しにするでもない。ここに、連中の目的が見えてくるというもの」


「目的?」


「そうだ。ここ一週間の俺達への攻撃。本気で倒すつもりなら、巨大ワープホール
 に待機させておいた艦隊を差し向けて来れば済むことだ。無論、負けるつもりはな
 いが──勝ち目も薄かろうな。『アルカディア』号が完成しておれば話は別だが、『デ
 スシャドウ』では不安もある。だが、奴らは積極的に俺達を攻撃しては来なかった。
 むしろ、少数の戦艦と、これ見よがしに鼻先をチラつく輸送船団。奴らは囮であっ
 たと考えるべき」


「囮…? 何故、そんな回りくどいマネを」


攻撃を受け流す。返す手で敏郎のポンチョを軽く切り裂いて、俺は敏郎の喉下に切っ
先を向けた。に、と敏郎が笑う。


「無論、大義名分と時間稼ぎのためであろう。ここ暫くの間に地球外銀河総督府の
 艦ばかりを襲う地球人の宇宙海賊。地球連邦と講和条約を結んだ今、その主従関係
 を明確にする意味でも連中は連邦政府に「地球人の手による地球人の反逆者の討伐」
 を命ずるだろう。濡れた和紙のごとき約定のために命を受け、出てくるのは──」



「地球人最後の艦隊司令…ウォーリアス・零!!」



敏郎の姿が、消えた。瞬間、手首に凄まじい衝撃。重力サーベルが宙を舞う。


「気がそれたな、ハーロック」


気付けば、敏郎の刀が俺の喉下に突きつけられていた。落ちてきたサーベルを受け
止める小さな手。「きししししし」と敏郎が肩をすくめる。


「まだまだである。精進せねば話にならん」


「ちぇ、汚いなぁもう。だけど、今の話って」


「うむ。憶測に過ぎぬが恐らくは俺の考えどおりと見て良いだろう。ハーロック、
 お前は強いが感情の揺れ幅が大き過ぎる。お前に討てるかね? 同じ地球人を、機
 械化人どもと同様に薙ぎ払えるか? 出来ぬであろう? んん?」


「……必要とあれば誰だって倒しますけどね」


「必要のない戦いだ。同じ地球人同士、機械化人に傾倒する意志もない。ただある
 のは──これ以上故郷を傷つけたくはないと思う気持ちのみ。背後に繰る者の糸が
 見えた哀れなマリオネットだ。お前の判断は…幾分か鈍ろう。『センチュリオン』の
 意図はそこにある。ハーロック、奴らの目的を知っておけ。連中の目的は──お前
 と零を咬ませて双方の消滅を図ること。そうであろうな」


「回りくどいよ」


「だが、確実な方法である。『ヘル』の名を持つ女がしゃしゃり出て来たのには──
 少々疑問の残るところであるが」


戦闘解除。敏郎が刀を収めたのを見て、俺も肩の力を抜く。「ほれ」とサーベルを渡
されて、俺は『ユグドラシル』をホルダーに収めた。


「で? どうであった。サーベルの具合は」


「悪くないね。トチローと一番長く切り結んでいられたもの。重力発生レベルを手
 に込めるちょっとした力で判断してくれるのが良いよ。相手に集中してられる。あ
 と、エネルギー増幅鉱石。形の無い斬撃もこれなら受けきれるね」


「ふん。そこまで褒めるのなら最上と言わんか」


素直じゃない。と腕を組まれる。「負け惜しみですよ」と俺は笑った。と、同時に艦
橋の視界が開ける。超異空間から出たのだ。ワープ終了。目の前に、太陽系が見え
る。



「うわ、俺初めて見たぜ。これが太陽系かぁ」



目を丸くして艦橋に入って来たのは魔地・アングレット。漆黒の髪をさらりと揺ら
して、俺の傍らにつく。俺は眉を顰めて長く艦橋に不在だった機関長兼砲術長を睨
んだ。


「魔地、お前どこ行ってたんだよ」


「え? 便所だよ。便所。今回のワープ長かったもんなぁ。俺、異空間に入ると便
 の出が」


陶磁器人形のような顔をして、便所便所と連呼するこの男。「台無しであるな」と敏
郎が額を押さえる。


「魔地、お前せっかくの美形であるのにその発言。控えんか馬鹿モノ」


「糞詰まりに美形もへったくれもあるかよ。敏郎、お前治せよなその性癖。美形だっ
 て大概お前と同じ生活様式してんだよ。便所いかねーのは少女漫画の王子様だけ
 だって肝に命じとけ」


「でも詰まるのは男らしくないよなぁ」


「あのな、ハーロック。こういうのに性別関係ねぇの。繊細なの、俺は。お前だっ
 て一回や二回くらいあんだろうが。詰まったり、ストライキされたりすることが」


「はばかりながらこのハーロック。大腸心身共に常に健康優良花丸男子だ。お前に
 も分けてやりたいぜ。この快調ぶり」


「これ以上便はいらねー。俺こそお前に分けてやりたいぜ」



「……下品だ。あまりにも下品だ」


敏郎の、嘆息。額をくっつけ合っていた俺達は「ごめん」と同時に片手を挙げた。「ジュ
ニア」とヤッタランが漫才みたいなムードに終止符を打つ。


「太陽系出たばっかでアレやけど…レーダーに機械化人のものと思われる輸送船発
 見。護衛艦三隻。どうしまっか?」


「うーん。本当ならすぐ海賊島行って落ち着きたいけどね。目の前をチラつく羽虫
 は叩き落すのが俺のやり方。トチロー、艦を修繕したいって言ってたね」


「うむ。舵が甘いのも直さねばな」


「OK。地球近辺を飛んでるなら『例のモノ』じゃなくて物資の輸送船かも。ヤッタ
 ラン、艦内放送するよ。ライン繋いで。──艦内手隙の者に告ぐ! こちらはハー
 ロック。たった今、機械化人のものと思しき輸送船を発見した。白兵戦準備!! 総員
 カタパルトに集合せよ。目的は連中の積荷だ。容赦はいらない。存分に簒奪し略取
 し搾取せよ。繰り返す、こちらはハーロック。手隙の者は着剣してカタパルトに集
 合せよ。機械化人の船を襲う。容赦はいらん。これぞ海賊の真骨頂だ。暴れたい奴、
 全員で来い!!」


おぉ、と艦橋の扉を隔てて聞こえる猛る声。気持ちの良いものだ。俺は腕を組み傍
らで額を抱える小さな親友を見下ろす。


「行って来る? トチロー」


「是非もない。お前らの下品トークには付き合えんし、丁度身体も温まったところ。
 艦の補修に使えそうなものがあるのなら見立てて来よう」


「Ja,聞こえたかお前ら! トチローが戦闘指揮官だ。総員彼の指示に従って行動す
 るように!!」



「ヤーポール、キャプテン!!」



威勢の良い返事だ。海賊のテンションはこうでなければ。俺は腕を組み、「警告だけ
は出してやろう」と目視出来る距離にまで近付いてきた輸送船にラインを繋がせる。


「──船団に告ぐ。停船せよ。停船せよ。命令に従わない場合は攻撃する」


低く、命じてやる。けれど、護衛艦は停船どころかこちらに主砲を向けてくる。やっ
ぱりね、と俺は口元に笑みを浮かべた。機械化人の戦艦が、こちらの命令に従った
ことなど──無い!!


「船団に告ぐ。停船せよ。停船せよ。命令に従わない場合は──攻撃する!!」



「ふん…茂みをつついて──何が出るか、な」



楽しみであるな。



敏郎が、ふわりとポンチョを翻して艦橋から出て行った。




















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