Fathers・2



★★★


「えーと、改めてご紹介します。霊界テレビなんて馬鹿な
 モンを造った馬鹿こと、俺の親父、大山十四郎だ」


「どーも、大山十四郎だ。Dr大山と呼んで良いぞ」


「……はぁ」


トチローに紹介され、ヤッタランは改めて目の前の傲岸不遜な
男を見つめた。年の頃は25、6か、年齢の差以外は全く相似形の
二人が並んで、メインデッキに用意されたコタツに座っている。
ヤッタランはもう一度メガネを擦って二人を見比べた。


「そやけど、トチローはんの親父さんは、確か六年前に宇宙病で
 ……」


「うん、お亡くなりになったど。でも、今回は特別ね」


にた、と大口を開けて無邪気に笑う大山十四郎こと、Dr大山。
ヤッタランは「特別ですか」と首を傾げた。


「せやけど、いくら新春やからって、人が生き返るなんて
 ことがあってもええのでありましょうか」


「──正確には生き返ったわけじゃねぇよ。ヤッタラン」


栗きんとんを皿に盛りつけながら、トチローが応える。ヤッタランは
「なんやねん」と反対方向に首を傾げた。


「せやったら、生き返ったわけではなくて、Dr達はユーレイ?」


「ま、そういうモンだ。なぁ親父、あの霊界テレビ、例のトーマス・
 エジソンのヤツだろ。仮にも“マイスター”がパクってんじゃねぇど」


「ふん、気付くのが遅いな敏郎よ。お前はパクりと言うが、あのテレビは
 エジソンの設計図に俺が独自の改良を加えたもの。エジソンの設計じゃあ、
 せいぜい“霊魂”と呼ばれるものの音声らしきものや影を映す程度だが、
 このテレビは見てのとおり“霊魂”の実体化と触感までを再現出来る
 優れもの。ま、俺ならお前の歳には、これくらいのシステム10秒もあれば 
 見抜けたぜ」


「はっ、10秒かからず見抜いてたよ。てめぇの馬鹿面見た瞬間
 にな。親父に花持たせてやったのに、気付きもしねぇで、
 もうボケたんじゃないのか? てめぇ」


「親父さまに花持たそうなんて生意気なことはなぁ、モーコハンが
 消えてから言うんだな、マイサン」


ぎゅ、とDr大山がトチローの鼻をつまむ。「ひししししっ」と笑われて、
トチローが「てめぇ」と肩を怒らせた。一触即発や、とヤッタランは
目をつぶる。
──が。


「トチロー! 行き先決まったぞー。この先に、『スノー・スノー』って
 いう星があるんだって。ショーガツらしい星らしいぜ。さすが
 死んでても親父だよなぁ、色んな星知ってるの」


ハーロックが星図片手に無邪気に駆けてくる。どすぅ、と勢い良く
抱きつかれ、トチローの怒気が空気に四散していった。


「す、スノー・スノー……?」


落ちたメガネを拾いながら、トチローが背中のハーロックを見やる。
「うん」と嬉しそうにハーロックが星図をトチローの前に広げた。


「ショーガツって、冬にある行事なんだろ。クリスマスの時も
 思ったんだけどさ、やっぱり雪があった方が良いよ。地球に
 いた頃さ、俺の住んでた場所、寒かったから、毎年冬には雪が
 積もって。楽しかったんだ」


「ユ、キ……? あの、冷たい?」


星図を確認しながら怖々とトチローが尋ねる。「そうだよ」と、
ハーロックはふにゃりと眼差しを緩めた。


「……そうか、トチローはタイタン育ちだから雪を
 見たことがないんだな。大丈夫、ちょっと寒いけど
 トチローはきっと雪を好きになるさ」


「そ、そうか。俺が好きそうなものか」


ハーロックの腕の中で、ほっとしたように息をつくトチロー。


「……お前ら、ホモみたいだな」


身を寄せ合う二人を眺めて、大山氏が呟く。トチローがすかさず
Dr大山の前に置いてあったスルメを取り上げた。「あ」とDr大山が
中腰になる。


「おいコラ、父のつまみを取り上げるとは何事だ。バチが当たるど
 てめ」


「実子をホモ呼ばわりとはなんだ。死人に喰わせるスルメはねぇよ。
 とっとと地獄に失せやがれ」


コタツを挟んで、睨み合う父子。ヤッタランは沈黙したまま数の子を
口に運んだ。これもトチローが丹精込めて塩抜きしたものだ。残しては
バチが当たる。


「すまないな、トチローくん。一度は永劫の眠りについた
 わたくし達が戻ってくることなど、迷惑以外の何ものでもないと
 思ったのだが」


霊界テレビなるものを抱えたまま、グレート・ハーロックがメインデッキに
入ってきた。どうやらあの16インチテレビは持ち歩かなくてはならない
ものらしい。


「い、いえ! グレート・ハーロックは──そんな」


微笑みかけられ、トチローの頬がたちまち赤くなる。彼は
グレート・ハーロックに並々ならぬ憧れの念を抱いているのだ。


「あ、あの。良かったらお節料理も食べていって下さい……」


トチローは赤面したままグレート・ハーロックに重箱を差し出す。
「ありがとう」と、グレート・ハーロックが重箱を受け取った。
それはそれは、ヤッタランも見たことのないような笑顔で。


「この黒豆、美味いな。これほどの味が出せるのは君の母君くらいの
 ものだよ。見事に家の味を継承されたね」


「そんな……。まだまだ母の味にはほど遠い、です」


「謙遜することはない。大山も料理は上手いがね、このように繊細な
 味は彼でもなかなか」


二人の周囲に、何ともいえない温かな空気が流れる。ハーロックが、
む、と唇を引き結んだ。


「何だよ親父。トチローにお節料理作ってって頼んだの俺なんだぞ。
 俺が一番に箸つけるって決めてたのに」


グレート・ハーロックの手から箸を取り上げてそっぽを向く。
僅かに頬を膨らまし、拗ねたようにトチローを抱き締める。
「メーッ」とトリが激しくハーロックの後頭部をつついた。


「痛ッ!! てめ、このトリ! 先にトリローにちょっかいかけた
 のは親父だぞ。なんで親父に行かねーんだよ!」


「メーッ!!」

 
トチローを心から愛するトリにとっては、トチローとほのぼのとした
雰囲気になったグレート・ハーロックよりも、直接触れているハーロック
の方が害らしい。大きな翼で懸命にトチローを庇う。


「と、トリさんトリさん。良いんだ、ハーロックは別に俺を
 とって喰おうとしたワケじゃ…──」


「メーッ! トッテクワレマスド」


「喰わねーよ!!」


ハーロックVSトリ、再び。バタバタとデッキ中を走り回る一人と
一匹。大掃除をしていないので、照明の下に薄く埃が舞った。

ばたばたばたばた……。


「ふむ、このゴマメも美味い」


実子とトリが縺れ合う中、グレート・ハーロックは上品に箸を運ぶ。


「なぁなぁ、隠し芸見るか? 隠し芸。俺、ハナさんの銅像好きなんだ
 よなぁ」


Dr大山は、喧嘩に巻き込まれ、トリの足に後頭部をドツかれても意に
介しない。
がちゃがちゃと霊界テレビ(普通の番組も観られるようだ)のチャンネルを
いじくって鼻歌さえ歌っている。


「──…ハナさんの銅像、もうないんとちゃいますやろか」


──なんや、キンチョー感ない海賊戦艦やなぁ……。
ヤッタランは、ずず、と雑煮を一口すすった。














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