White・Present3
★★★




「トチロー! ただいまぁ!!」


ハーロックが満面の笑顔でメインデッキに駆け込むと、トチローは一人、
自分用のモバイルでスペースネットから何やらを検索しているようだった。

デッキの中央にはコタツなるテーブル。竹の籠にはミカンが山と盛られ、三つ置かれたラーメンどんぶりには、出来たての蕎麦が湯気をたてている。
──待っててくれたのだ。ハーロックは急いでトチローの背中に飛びついた。


「ごめん! 一人で寂しかったろ。一緒にショーガツを迎えような」


「……いーよ、別に。ヤッタランとデート楽しんで来いよ」


怒っているのか、拗ねているのか、諦めているのか。トチローの表情は
全く読めない。ただ、コタツの中でトリが酔いつぶれ、トチローの頬が
酒気を帯びて赤くなっているところを見ると、やたらと飲んではいたようだ。


「酔っぱらうなよトチロー。ヤッタランとデキてるなんてあり得ないって。
 あれは、ある目的を遂行するための嘘だったんだよ。な? ヤッタラン」


「そ。ジュニアは頑張ったんやで、トチローはん」


「ある目的?」


ヤッタランの取りなしで、ようやくトチローが振り向いてくれる。ハーロックは道中、必死でラッピングした桐の箱を抱えて見せた。


「これ! クリスマスにトチロー、時計くれただろ。だから、お返し。
 日本じゃ“オトシタマ”って言うんだっけ?」


「オトシタマ……って、ひょっとして着物か? これ」


トチローが小さな目を丸くする。ハーロックは力一杯「うん!」と頷いた。


「たまたま近くを通りかかった輸送船が持ってたんだ。ショーガツは
 トチローにとって大切なイベントだろ。晴れ着の一枚もあったら良い
 かな、と思って」


「──…馬鹿」


ぽ、とトチローが耳まで赤くなった。


「さ、最初っからそう言ってくれればよ、俺だって、何も変な疑いを
 お前らにかけることは……」


「内緒にして、あとでビックリさせたかったんだよ。さ、良かったら
 着て見せて。羽織るだけでも、さ」


「うん………」


ホモとか言ってゴメンな、とトチローが囁く。気にすることないさ、と
ハーロックは、彼の薄栗毛の髪を指先で梳いた。


「気に入ってくれると良いんだけど」


「馬鹿、ヤッタランとお前がくれたものだ。気に入らないなどと
 いうことが──」


ぴた。


箱の蓋を僅かにずらし、トチローが硬直する。


「お、お前……これ、白無垢……」


「うん。トチローには白が似合うから。他にもあったみたいだけど、
 白にしてってヤッタランに。綺麗だろ。ヤッタランの目は確かだなぁ」


ハーロックはトチローの手に手を添えて、丁寧に着物を広げた。アルカディア号の照明の下、きらきらと仄かな光沢を持った打ち掛けだ。鶴やら亀やらが白銀の糸で刺繍してあるのも美しい。ハーロックはうっとりと着物を眺めた。


「素敵だ。さ、トチロー、早く着て──」


「ばッ……!! 馬鹿この──ッッ!!!」


ごちんっ。トチローの拳が垂直に落ちてくる。脳天から爪先まで響いた痛みに、
ハーロックは思わず涙ぐんだ。


「いてッ……! 何するんだよトチロー。嬉しくなかったのか?」


「いや、嬉しい。嬉しいけど、これは白無垢!! 婚礼衣装だ! しかも女の!!」


「──へ?」


思考が真っ白。目が点になる。ヤッタランに視線をやると、彼は無表情で
「スマン」と手を合わせていた。


「さすがに、男モンと女モンの区別はつかんかったわ。キモノって
 ズボンとかあらへんしな」


「袴があるわい! こーの未熟者共が!!」


トチローが怒髪天をつく。ヤッタランは素早くラーメンどんぶりを抱えて
逃走した。丸形の体型に似合わぬ速さで。


「ほなな、お二人さん仲良く年越しや」


「なーにか!! 待てこのブタ! おめーに喰わせる年越し蕎麦は
 ねぇ!! ねぇったらねぇ!!」


「ま、待ってくれよトチロー」


立ち上がりかけた親友の腰にタックル。ハーロックはトチローを思い切り
押し倒して白無垢でくるむ。


「良いじゃないか別に。結婚してくれって言ってるわけじゃなし。
 一回くらい袖通してくれたってバチ当たんないぞ」


「馬鹿やろテメー。女装しろって言ってるも同然なんだど。断る!
 断じて断る!!」


「化粧までするわけじゃなし。見てるの俺とヤッタランとトリさんだけだろ。
 恥ずかしくねーよ。着てくれよ!!」


「嫌だ嫌だ。絶対嫌だ──ッ!!!」





★★★


 ──ごーん。
もみ合う二人の頭の上で、開かれたままのモバイルが、ダウンロードされた
除夜の鐘を、静かに、厳かに打ち鳴らしていた──。











END









 

●イベント企画第二弾。大晦日のお話。ハーロックが大変だ。これはやり過ぎたのではないかと思っております。馬鹿に加速がついてるよ……!!
さすが、ecのハーロックはファーロックなだけありますね(身内ネタ)。
一度ついたスピードは止められません。これからも加速がついていく予定です。←おい。



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