Happy Valentine?






『ハーロック、質問があります』

「何だ、エメラルダス」

宇宙空間通信でトチローではなく、自分を指名してきたときから、何かおかしな気はしたのだ。
トチローは只今研究室兼自室に閉じこもり中であるが、エメラルダスからの通信ならば喜んででるはずである。
しかし、エメラルダスはハーロックに繋いで欲しいといってきた。

嫌な予感がしたのだ。




画面越しのエメラルダスはひどく真剣な面持ちである。








『メイド、猫耳、チャイナ、ナース・・・・・貴方ならどれがいいですか?』





「は?」






時が止まるということを実感した瞬間だった。






 
Happy Valentine?










「エット、イキナリナンデショウカ?エメラルダスサン」


冷や汗がだらだらと背中を伝う。
ハーロックは自分の顔が青ざめていることを知った。

とりあえず思ったのは『ここで下手な答えを言った日にはトチローに殺される』ということである。
死にたくはなかった。
何が悲しくて親友に殺されなければならないのだろう。
にっこり笑顔で刀を抜く親友の顔が脳裏によぎる。



『ハーロック、死ぬか?』


それだけは避けたかった。





『いえ、メーテルが』

「メーテルが??」

銀河鉄道999に乗り、宇宙を旅する謎めいた美女。
それが、このエメラルダスの妹だという事実を知ったのは、つい最近の出来事である。


「メーテルがどうかしたのか?」


とりあえず、話を聞いてさっさと終らせようと思った。


「『バレンタインにはやはりそれ相応の格好が必要でしょう』と言って・・・・・服を送ってきたのです」

「・・・・それで?」

「どれがいいのでしょうか?」

「・・・・チャイナやメイド服を送ってきたのか?」

「ハイ」

顔を赤らめるでもなく、平然と答えるエメラルダスに何を言えばいいのか一瞬悩む。
やはり、この姉妹は謎だらけだと改めて感じた。



「・・・・・・ハーロック」



思わず黙想状態に入ってしまったハーロックを正気に戻したのは、エメラルダスの三度目か四度目の呼びかけであった。


「・・・・・あ〜・・・・・・いや、その・・・・・・」

ここで自分はなんと答えるべきなのか。
ハーロックは、紆余曲折様々あった人生の中で、今現在、最大の疑問に直面しようとしていた。


しかし、そんなハーロックの深い苦悩に気づくことなく、エメラルダスは話を続ける。


「正確に言うと、チャイナドレス、ナース服、猫耳、メイド服、白いエプロンドレス、バーニーガール、スクール水着、ウエディングドレス、・・・・なんですけど」


どこでそんなマニアックなものを手に入れた、メーテル!
そして自分はどう答えればいい!
大体、自分が答えたらそれでトチローに会いに来るのだろうか?
あの、クイーン・エメラルダスが!?


「どれでも似合いそうだがなあ・・・・」


思わず遠い世界に行ったまま呟く。
エメラルダスほどスタイルがよければどんな格好でも似合いそうだ。
なんだか悩むのが馬鹿らしくなってきた。



「そうですか?」



エメラルダスは不振そうに眉をひそめる。




「ああ、なんでもいいんじゃないか?喜ぶと思うぞ・・・・・多分」




その前に怒りそうな気もするが。
まあ、二人のことだ。
自分にはさほど関係ないだろう。
きっと。

マニアックな夜もたまにはいいだろう。
なにせ、バレンタインだ。
恋人達の祭典だ。
いいじゃないか。
うん。




無理やり自分自身を納得させる。



その後の被害は特に考えないことにした。






「まあ、俺個人的にはエプロンかなあ・・・・」





とりあえずこの場所から逃げ出したいと切実に思う。
今まで過去戦ってきたどんな強敵よりも、今、目の前のエメラルダスのほうが怖い。
正確に言うと、その笑顔にかぶるトチローの壮絶な笑みが怖い。





「・・・・・・・そうですか・・・・・・・・」




さすがに、チャイナドレスや、メイド服とは違い、裸エプロン(白いエプロンにそれ以外の使い方があるだろうか?しかもこのラインナップならば間違いなく裸だ)ならば、そのままの格好でこちらの船に渡ってくることもないだろう。
つまり見るのはトチローONLY。

なかなか良い答えを出したものだと自画自賛したい。


ああ、これで帰れる(どこにとは聞くなかれ)と思った。




「分かりました。トチローには白いエプロンドレスを贈ることにします」




「・・・・・・・・・・・・・・・は?」


思わず脳が活動を停止する。


「チョコレートと一緒にお届けにあがりますね」



「・・・・・・・・」



「ハーロックはどのようなチョコレートがお好みですか?」




「って、チャイナドレスとかナース服とか猫耳とかメイド服とか白いエプロンドレスとかバーニーガールとかスクール水着とかウエディングドレスってエメラルダスが着るんじゃなくてトチローが着るのかそしてそれを贈るのか!!」




「・・・・はい・・・・・・あの、大丈夫ですか?」


息継ぎを一度もすることなく言い切ったハーロックに、エメラルダスが心配そうな表情で問いかける。



「ああ」




眩暈はするが。




「あ、あのな、エメラルダス」


これは、ギャグなんだよな!
本気じゃないんだよな!!!!


思わず叫びそうになるが、ふと思い直してぐっと堪えた。

これはきっとトチローが考えたブラックジョークなのだ!

真剣な顔をして、後でトチローと二人笑うに違いない。
そうだ、そうに違いない!
エメラルダスがこんなことを思いつくはずがないので、きっと首謀者はトチローだろう。

トチローは時々自分をからかって遊ぶのだ。
きっと、これもそうなのだ。


ここまで自分を混乱させたのだ。
いつも、いつでもからかわれてばかりいられるか!
ひっかけようったってそうはいかない。


混乱していた脳が冷静な計算を始める。


逆に乗ったふりをしてやろうと思った。


「俺はビターチョコレートが好きだ」


何を考えてエメラルダスがこのようなことをやったのか興味があるが、それはそれ、これはこれ。
騙されたふりをしてやろうと考える。


「分かりました」


しかし、エメラルダスは驚くでもなく、おどおどするでもなく、にっこりと微笑んだ。
嘘を流されて驚く、もしくはうろたえるだろうと思っていたので、一瞬あっけに取られる。


「ありがとうございました。相談に乗っていただいて。では、バレンタインにそちらにお邪魔しますね。それではまた」



そして、通信が途切れた。



最初とは比べ物にならない冷や汗がハーロックの背中を流れる。



「もしかして本気か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」






数日後。





「なあ、これなんだと思う?」
「さあ?」



ハーロックは極力トチローと目を合わせないように、しかし目の前の『エプロンドレス』に冷や汗を隠しきれないでいた。


『トチローに似合うと思いまして』
にっこりとトチローに手渡すエメラルダスに思わずハーロックは固まる。
『今度会うときに着てみてくださいね』



「今度会うときに着ろって、手作り料理でも期待してんのかな?」
「どうだろう?多分そうじゃないか?」

あまり深くは聞きたくない。
そして聞かないで欲しい。
しかし、メーテルといい、エメラルダスといい何を考えているのだろう??
白いフリルのついたエプロンドレスはまるで注文品かのように、トチローにぴったりである。



「ま、いいか」



トチローは、にっこり笑うと『それ』を大切そうにしまった。



「ああ、いいんじゃないか?」




口元が引きつる。










(とりあえず、スクール水着といわなくて良かった)







Happy Valentine?













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あまりにも素敵なので即ゲットしました。
トチローの白エプロン……!! 今夜も眠れないこと受け合いデスね! っていうか東條が眠れません。ドキドキですよ。もう、ドッキドキ。
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