Long・Letter




未だ見ない僕の親友へ──。


お元気ですか? 僕は昨日、12歳になりました。


僕と君は同い年だと聞いたので、きっと、君も12歳なんだろうな。


授業は楽しい? 僕は、ちょっとつまらないよ。だって、勉強が
あまり得意じゃないから。体育は得意なんだ。かけっこも、
鉄棒もフェンシングもクラスで一番なんだよ。


僕のクラスは軍人養成クラスだから、コスモガンの射撃訓練もあるんだ。


一年上級クラスに上がれば、戦闘機の操縦訓練もある。と、いっても
シミュレーターでだけだけど。本当に乗れるようになるには
17歳にならないと駄目なんだって。


でも、内緒だけど僕は乗れるよ。得意中の得意なんだ!


この前、それで賞金首を捕まえたんだ。17歳じゃなくっても、
僕はドッグファイトで大人相手に勝てるってこと、君にだけは教えておくね。
(他に知っているのは幼馴染みのヤッタランだけなんだ。特別だよ)



タイタンは暑いところなんだって? 土星からの光がものすごく
強くて、昼間は日よけの帽子がないと歩けないんだって、
この前授業で習ったよ。


僕の住んでるところはあまり晴れないところだから、帽子ってあまり
かぶらないんだけど、君はかぶっているのかな。土星射病って辛いらしい
から、充分に気を付けてくれよ!



──君は今、何をしてる?
(僕はこの手紙を授業で書いてるんだ。国語の教師ってどうでも良いこと
 ばかりやらせたがるんだ。退屈だね。君は好き?)


君は、僕のことをお父さんから聞いた? 僕は、小さな頃から君の話を聞いていたよ。


だから、色々知ってるんだ。

君のお父さんが僕の父さんの親友だったってこと。

君のお父さんが優秀な“マイスター”だったってこと。

それに、父さんが乗ってる艦を造ったのは、君のお父さんなんだって
こと。
父さんは、それをとても誇りにしてるんだ! 



君は将来何になるつもり? 僕は、断然海賊騎士かな。

僕の一族の家業なんだ。軍人か、海賊騎士。
軍人ってなんだか暗い響きだけど、騎士っていうのは格好良いよね。
父さんも昔は軍人だったんだけど、軍人は自由がないから
悲しいよって、言ってた。

だから、俺は軍人にはならないって最初から決めてたんだ。


俺の夢は、全宇宙で一番強い騎士になること。


だって、一番強くなれば、この世で一番気高いものを守っても
良いだろ。
今はまだ、一番気高いものが何なのかわからないけど。

でも、それを探すために宇宙に出ようと思うんだ。
もちろん、俺自身も気高くなくっちゃいけないから、誰に対しても
自分を曲げないでいいように、強くなるんだけどさ。

これは、すっごく内緒のハナシなんだぜ。まだ母さんにも
ヤッタランにも言ってないんだ。
だから、絶対誰にも言わないって約束してくれよ。俺の夢の
ことなんだ。男は自分の夢をやすやすと他人に話すもんじゃないよな。
そう思わない?



話を戻すね。
君は僕のことをどれだけ知ってるだろう。

僕の父さんが君のお父さんの親友だって知ってるかい?


君の話を聞いてから、僕が早く大人になりたいって思ってる
ことは?


早く大人になって、君の住む星まで行きたいって思ってる
ことは知ってる?

君に話したいことがたくさんあるってこととか、
君に聞きたいことがたくさんあるってこととか、
もうとっくに、僕の中で君が親友なんだってこととか、
そういうことを知ってる?

不思議だろ? 僕は父さんから君の話を聞いてから、ずっと
君のことを近しく感じてるんだ。君の顔も、声も知らないのに
君の心だけが伝わってくるような感覚なんだ。

君が今──とても寂しいんじゃないかって、僕は思ってるんだけど。


僕の思い込みかな。それとも、僕が寂しいからなのかな。



寂しいんだ、とても。



みんなが、僕を怖がってるみたいなんだ。
原因はわかってる。
それは、僕が10歳の頃に人を殺したからだと思うんだけど。


人を殺したんだ。うん、僕が10歳の時だよ。


学校の校庭だよ。驚いたかい。でも、本当のことなんだ。

正当防衛だったって、ヤッタランは言ってくれるし、俺も
そう思うけど、みんなはそう思わないみたい。
僕の父さんが海賊だから、僕も平気で人を殺せるんだって
思うみたいなんだ。

そんなの、全然違うのにね。その時のことはよく憶えていないけど、
顔に付いた血の生ぬるさは忘れないよ。あれは、とても嫌な気分だった。


──だけど、みんな怖がってる。先生も。


友達だった奴らも、なんだか遠くなっちゃった。
僕は何も変わってないのに。


こんなこと、君にでなきゃ打ち明けないんだけど。
君はどう思う? やっぱり、僕が恐ろしいだろうか。


今は上手に書けないんだけど、このことは、いつか君にきちんと
話さなくちゃいけないと思うんだよ。

友達に隠し事をして向かうのは良くないことだって思うから。
たとえ、それで君に嫌われるんだとしてもさ。
(それでも、君は他の奴らとは違うって、ほんの少し期待しても
 良いかな)



あぁ、チャイムが鳴ってしまった。もっと、書いてしまいたいことが
あるんだけど。


早く会いたいよ。

その時は、君のお父さんが僕の父さんを好きになってくれたみたいに、
僕のことを好いてくれるかな。

僕が海賊の息子でも平気? 

僕が反逆者(父さんは無実だって僕は思うけど)の息子でも平気?


きっと大丈夫だよね。僕は、君に誠意を尽くすよ。
君を裏切ったり、傷つけたりしないって誓うよ。


もう少しお金がたまったら、君を迎えにタイタンへ行きます。
さっきも書いたけど、地球に隠れてる賞金首を捕まえてね、
お金を貯めてるんだ。もうずいぶん貯まったから、あと一年くらいで
行けると思う。


君は、僕を待っててくれるだろうか。

もし君が誇り高くて、お父さんから僕の話を聞いていたら、
そのことは問うまででないと思うんだけど。


いつか、一緒に宇宙に出よう。髑髏の旗を掲げて、
僕達の艦に乗って。

艦の名前は一応考えてあるんだ。遠いご先祖が、自分の乗ってた
戦闘機につけていた名前だよ。


我が青春のアルカディア号──。少し長ったらしいかな。


もう少し縮めても良いと思う。それとも、君も考えて
いるんだろうか。聞きたいな。


会いに行くから。絶対に。


それでは、先生がこっちに来たので手紙は破いて捨ててしまうね。





未だ見ない僕の親友へ。





2963 F・Herlock













●ハ−ロックからトチローへ。期待と憧れと。
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