※注意! 相当頭悪い内容となっております。馬鹿騒ぎが苦手な方は
 スルーの方向で。










天河星河・2




★★★


傾くことを知らないプラネタリウムの夜空の下、二つの影が寄り添っている。

互いに恥らうように視線を逸らし、それでも膝を付き合わせたまま、時折触
れ合う指先の感触を楽しんでいる。

微かな星明り。先に動いたのはハーロック。声を上げたのは──零。


「あっ……駄目だ。駄目。電気は……消したままに──」


「何故? 点けた方がよく見えるのに」


「だって…恥ずかしい……。こんな、姿で」


「恥ずかしいなら俺だってそうさ。でも、元はといえばお前がしたいって
 言い出したんじゃないか」


「でも、明かりなんて。君だって、恥ずかしいのなら」


零は羞恥に震えている。長い睫毛を伏せ、両手を胸元で合わせている気配。
軍用コートを脱いだ零は素直で可愛いものだ。ハーロックは目を細める。


「俺は別に。今更恥らっても仕方ないことさ。覚悟ならとうに決まってる」


「だが──…」


「まさか、お前は覚悟してなかったとでも? ふ…確かにな。お前のその
 格好、火龍の連中が見たら何て言うか。栄えある地球連邦宇宙機動軍中将
 閣下が、こんな粗末な四畳半で──」


「くっ……言うな。言わない、で……」


頬が、耳朶が、これ以上はないというほど紅潮している。淡い星の光で、白
く浮んで見える産毛。暗がりでも、零の瞳が濡れて揺れているのがハーロッ
クには見て取れた。


「わかったよ。そんなに嫌なら──電気はよそう。星の光でも俺は充分見え
 るしな」


「そんなに……夜目が……?」


「あぁ、今もよく見えてるぜ」


「──ッ」


俯く。ハーロックはそっと膝をついて、零の頬に触れてやった。熱い。肌も、
吐息も汗ばんでいる。


「電気を点けないなら──次の段階に進まなくちゃな」


「そんなッ……まだ」


「まだ? お前だって本当は早く始めてしまいたいくせに」


「でも……」


「迷うなよ、零。お前から誘ってきたんだろ?」


肩を抱き寄せ、手を重ねる。零がぎゅっと目を閉じた。全身の緊張をほぐす
ように髪に触れ、肩に置いた手を腰まで移動させて撫でてやる。「あ」と零
がびくりと身体を震わせた。


「ほら……、口開けろよ零。入れてやるからさ」


髪に触れていた手を唇に。ふっくらとした下唇をなぞり、親指で上唇を軽く
押し上げると、彼は観念したように唇を開いた。乱れた呼吸。逃がさないよ
うに捕まえて──皮の剥けてすっかり準備の整ったソレを押し付ける。


「む、無理だ……。こんなに大きいモノ……」


「気取るなよ。お前はまだ良いさ。俺なんか……お前のコレ、凄いぞ。ちょっ
 と触っただけなのに──もうこんなに」


「だ…駄目だっ……触るな──!」


「どんどん溢れてくるぜ? はは、何だか怖いな」


「だから……ッ…さ、触るな……触ら、ないでッ……」


「何故だ? 零」


「だって…だって怖い……そんなモノを──口に」


「お前のなんだから大丈夫さ。ほら、甘い」


「馬鹿ッ……知らないぞ。どうなっても──あぁ!!」


軽く歯を立ててやると、呆気なくソレは弾けた。とろりと溜まっていた蜜が
ハーロックの口元を汚す。零は羞恥極まりないといったように唇を噛み締め、
彼の唇と顎を拭いにかかった。


「だ、だから言ったのに……恥ずかしい……」


「慣れてないんだから当然だろ。ほら、立てよ。さっさと済ましちまおう」


「せ、性急過ぎる……もっと時間をかけて……」


「こんなことに時間かけてどうするんだよ。柱に寄りかかって……そう、
 上手だ。あぁ、そんなに背中丸めるなよ。やりにくくなる」


「だけど…こういうことは……年長の私が先に」


「したいのか? ふ…まぁ良いぜ。どちらでも同じことさ。男同士、その
 立場に優劣なんかない」


「あぁ……ハーロック……前より…大きくなってる。こんなにも……」


「そりゃあ若いからな。そろそろ口閉じろよ零。お喋りが過ぎるのは──
 ルール違反だ」


「わかってる……でも……」


「恥ずかしい、か? お前は本当に恥ずかしがり屋だな。でもそれじゃあ先
 に進まない。やっぱり俺がリードして」


「あッ……駄目だ……ッ…そんな乱暴にして……痛い……」


「大丈夫、すぐ済むから……逃げるなよ零。俺だって、もう限界──」





「ぬわぁにを貴様らぁッッ!! この神聖なる四畳半で不埒な行為を──!!!」





ぴったりと影が重なったその刹那、押し入れの戸が勢い良く開いた。雪崩れ
込んできたトランクスの山を押し退けて出てきたのは、頬を真っ赤にした敏
郎である。

「あっ」と零は反射的にハーロックを押し退けた。ハーロックは数歩よろめ
いて──にやりと悪辣とした笑みを浮かべる。


「なんだよトチロー。良いところだったのに。お前も混ざりたくなったか?」


「な──なななななななナニを言う! 嬲るか馬鹿者が!! だ、誰が混じる
 ものか! お、お前という奴は──!!」


ぷしゅう、と敏郎の頭から湯気がたった。あまりに感情を激しすぎたのだろう。
目が潤んでしまっている。「敏郎」と零がさっと彼とハーロックの間に膝を
ついた。


「敏郎! どうかハーロックを叱らないでくれ。元はといえば私が──」


「零よ! 庇うでない。これは俺とハーロックの問題なのだ。お、お前と
 いう奴は──な、ナニもしておらんと先程いった舌の根も渇かぬうちに!!」


「ふっ、男の嫉妬は見苦しいぜ。大体、俺と零二人きりにして逃げたくせに。
 その結果に口出しする権利が果たしてあるのかな」


「お──俺は逃げたわけではないど。決して逃げてなど……」


それでも、多少親友を置き去りにした罪悪感があるのか、敏郎はもごもごと
口ごもる。零が、二人の顔を交互に見比べて「あぁ」と切なげな息を漏らし
た。


「二人が言い争う姿など……見たくない。私がいけなかったのだ。敏郎、君
 の不在のうちにコトを進めようなどと……思うんじゃなかった」


「零、お前が自分を責めることなど──誘いに乗ったハーロックが悪いの
 だ。お前はしきりに嫌がっておったのに、無理矢理」


「だって早く終わらせないとお前戻って来たらまた揉めるじゃないか」


「お前よくもいけしゃあしゃあと! 切り捨ててくれるわ! そこへ
 直れ!!」


怒り心頭も露わに刀を抜き放つ。零が蒼白になって敏郎の腰に縋りついた。


「と、敏郎、暴力はいけない。刀を収めて──」


「零よ、何も言うでない。お前のハーロックに対する気持ちはわかるが……
 やはりこのようなこと、許されることでは」


「私の気持ち?」


零がきょとんとして小首を傾げる。


「そうだ! お前のハーロックに対する恋慕の気持ちはよくわかる。だが、
 ナニをするにしてもだな、あのように風情のない俗物的な進め方は断じて
 許せぬ。あれではまるで都合の良いカップラーメン……否、南極一号では
 ないか!!」


「カップラーメン? 南極一号? 敏郎、君は一体何を言って」


「言わぬでよい。言わぬでよいぞ零よ。ハーロック、お前の何という思いや
 りのなさよ。俺は悲しいど。俺を爪弾きにするのは構わぬが、せめて布団
 くらい敷いてやっても──」


「………布団?」


ハーロックはぽりぽりと頬を掻いて、敏郎の振り回す刀の切っ先を摘まんで
止めた。


「布団なんかいらないだろ。まぁ、横になっても出来るだろうけど、縦の方
 がやりやすい」


「なんだとぅ!! それはお前の好みであろうが! 受け入れる側の身になっ
 てみよ!! 立ったままなど──獣かお前は!!」


「獣じゃないよ。ちゃんと巻尺使うもの」


「そう、きちんと巻尺くらい──って、おや?」


まきじゃく? 敏郎の小さな目が点になる。「巻尺?」と困惑の瞳を向けら
れて、ハーロックは「巻尺だとも」と作務衣の腰帯に挟んであった巻尺を取
り出した。


「これで背比べするのが今年の七夕ルールだろ。電気点ければ目測でも結構
 正確に測れるんだろうけど、零が電気点けるの嫌がったから」


「だって、紙カブトかぶってるんだぞ。いくらルールとはいえ…恥ずかしい」


大の大人が。零が敏郎から離れて恥ずかしそうに紅潮した頬を両手で包む。
敏郎は無言のままふらふらと玄関に行き、電灯のスイッチを点けた。

ぱっと明るくなる四畳半。紙カブトをかぶった大の大人が二人。ちゃぶ台に
転がっている笹の葉を剥いた『チマキ』が二本。淫らなことなど想像しよう
もない平和な光景である。敏郎は慌てたようにハーロックに詰め寄った。


「だ、だが! お前ら変な会話しておったではないか。しておったではない
 か。「大きくて口に入らない」とか、「ちょっと触っただけで溢れてくる」
 とか。その……ナニがナニしたときを連想するようなことを」


「だから」


『チマキ』。ハーロックはちゃぶ台の上を指差した。電球の白い光の下、明
らかに食べかけと見える『チマキ』達は、一本がとても大きく、一本は何や
ら謎の白濁した液体を垂れ流してちゃぶ台の上とハーロックの作務衣の襟
元を汚している。


「零に喰わせようとしたの、何かやたらでかかったんだよ。零、これアレか?
 傭兵のおっちゃんが作ったのか?」


「……そうだ。グレネーダーがやってみたいと言ったから、一つ任せた。
 口の大きな敏郎ならともかく──私ではとても」


「大丈夫。諦めるな。羞恥心を捨てればお前もトチローのような大口になれ
 るさ。大丈夫。お前いつだって大口叩いてるし、素質あるよ」


「大丈夫って二回も言うな。あと人をホラ吹きのように言うのもやめてもら
 おうか。優しげな顔したって騙されんぞ、私は」


「やめんか剣呑なやり取りは。だが、『チマキ』といってもハーロック。
 お前の襟、汚れておるではないか」


「あぁ。これは零が作ったヤツな。見た目と匂いはまだ良さそうだったんだ
 けど──ちょっと触ったら中味出てきてさ。急いでくわえようとして歯立
 てたらぶちゅって。蒸し時間短かったんじゃないかな、コレ」


「……失敗したんだろう。私が手がけたのだけがこの有様だ。だから、喰う
 なと言ったのに。腹でも壊したらどうするのだ」


零がどこか憮然として呟く。「慣れてないんだから仕方ないさ」と、ハーロッ
クは優しく彼の頭を撫でてやった。


「零は料理あんまりしないんだから、ちょっと変でも仕方ないよなぁ」


「……米粉を練って作る菓子なのに、何故液状化する」


敏郎がちゃぶ台に張り付くようにして弾けた『チマキ』を観察し始めた。ふ
んふんと鼻を近づけて、「匂いはまともなのに」と心底不思議がっている。

一応零にだって面子くらいはあるだろう。ハーロックは腕を組み、「蒸し時
間が短かったんじゃないかな」と押してみた。


「ほら、よくあるじゃないか。プリンとか杏仁豆腐とか……蒸す時間が足り
 ないとさ、表面だけ固まって中ぐずぐず、みたいな」


「いや、よくはなかろう。先程も言ったが『チマキ』とは米粉を練って作る
 菓子であって、液状の素材を蒸して固める様式のものでは」


「馬鹿だな。そういうミラクルを起こすのが零の手料理というものだ。駄目
 錬金術師とか、見事に製作者の心理状態を表現してるとか、そういう失礼
 なことを言ってはいけないぞ、トチローよ」


「誰が駄目錬金術師だ! 失礼なのは貴様だハーロック!!」


あまりに酷い言葉の応酬だ。ぐわぁ、と零が立ち上がった。背後から容赦なく
首を絞められて、ハーロックの爪先が宙に浮く。


「あははははは!! さっき測ったときは以前より少々大きくなっていたよう
 だが──まだまだ私には及ばないな! 中味ぐずぐずしてると言ったの
 を取り消せハーロック!!」


「ぐっ…男は二十五歳の朝食まで伸びるもの! 貴様などすぐさま追い越
 してくれるわ!! しかも取り消さない。取り消さないぞ。俺は嘘はつかな
 い男なのだ!!」


「ハーロック、意地を張るでない! お前、顔が紫色になってきておるど!!」


「私はぐずぐずなどしていない! 中味がぐずぐずなど……ぐずぐずなど。
 ぐずぐずなど、ぐずぐずなどぉぉおおぉおぉおッッ!!」


「零もよせ! 怖い!! 何かひとかたならぬ恐ろしい形相になっておるの
 である!!」


「ほ、ほらみろ。やっぱりぐずぐず──ぐえぇえぇえぇ」


「ハーロック、勇気と無謀は違うのだ! ときに折れるも勇気であろう。
 お前、顔が土気色に変色してきておるど!!」


「くっ……こんなところで死んでたまるか! 紙カブトもかぶったままな
 のに──死ね! 零!!」


ハーロックは背中を丸め、勢い良く背負い投げを決めて零をちゃぶ台に叩き
つけてやる。

敏郎の悲鳴。割れるちゃぶ台。飛び散らかる『チマキ』。四畳半は瞬く間に地獄の
様を露呈した。一度倒された零が、すぐさま復活してハーロックに飛びかかる。


「大体、君が紛らわしい喋り方をするから敏郎に誤解されるのだ。このエロ
 男! 性欲大魔神め!!」


「俺はエロくないね! お前が情けない声出して喘ぐからこのザマだ。耳年
 間のトチローに謝れ!!」


「私は喘いでなどいない!! こんな狭苦しいところで密着して背丈測ろうと
 すれば誰だってバテるわ! クーラーも知らぬ野蛮人め。文明を知る私に
 謝れぇえぇ!!!」


「誰が耳年間だ! 男二人で密着など……天地の理に逆らうにもほどがあ
 るわ!! 電気くらい点けぬか! エロ紛らわしい二人共俺に謝れぇ
 えぇぃ!!」


どたばたどたばかがしゃん。真っ二つになったちゃぶ台、畳が三つ巴の混戦
によって引っ繰り返る。もつれ合う振動の凄まじさに、漆喰の壁に罅が入っ
た。


「おぉお? やるか? マウントポジション取ったくらいで調子こきや
 がって。こんな体勢なぁ、ちょっと力があればお前、アレだ。引っ繰り返
 せるんだよ! グラッ●ラー刃●みたいにな!!」


「何がグ●ップラー●牙だ! そうやって漫画ばかり読んでいるから君み
 たいな馬鹿が量産されるのだ。なげかわしいことこの上ない。どうせ君
 なんかアレだろう。小さい頃「海賊王に俺はなる!!」とか言って一繋ぎの
 財宝探して宇宙に出た系だろう! 手足伸ばしてみるがいいわ!!」


「俺は馬鹿じゃありません〜。馬鹿は馬鹿正直に軍属やってるお前です〜。
 機械化人の言いなりで恥ずかしくないのか? 羞恥プレイも大概にしろ
 このM男!!」


「漫画人生素でいってる君に言われたくないわ!! 機械化人の狗と呼びたけ
 れば呼ぶが良い!! そんな言葉責めに屈する私ではないぞ。むしろ最近は
 心地良いくらいだ。あーっはっはっは!!」


「言葉責めって言っちゃってるど零よ! それはマズい。それで屈しないで
 むしろ気持ち良くなっちゃってるのはマズい!!」


「ほらみろ、トチローに怒られた。やーいエロ男。エロ魔。大エロエロショー」


「ぐわぁあぁあぁあぁ!! ハーロック死ぃねぇえぇええぇえぇッッ!!!」


「や、やめよ! 首はやめよと言うのに!! ハーロックもだ! いつまで
 俺の足首掴んでおる!!」


「ぐえぇえぇえぇ。いいや、今度は逃がさない。親友だろ、生きるも死ぬも
 一緒だろトチロー。さっきは見捨てて逃げやがったが、今度はそうはいか
 ないぞぉおぉおぉお」


「ぐにょぉぉおおぉおぉ。や、やめ。首絞めるのはよせハーロ……ぐぞう、
 もうヤケだ。死なばもろとも! 零、命もらったであるうぅうぅうぅう」


「く、苦しッ──!! としろ……ッ! 頚動脈に入ってるぞ。死、死ぬ……」


「俺も死ぬぅうぅうぅ」


「あ──意識が遥か彼方の銀河系に──……」


「お、お母さん……」


「な、なんで人って死ぬ間際にうっかり「お母さん」とか言っちゃうんだろ
 うな──……あぁ、もう、ダメ……」



がくり。互いに見事に急所を絞め合っていた生粋の戦士三人は、殆ど同時に
意識を失った。




















<3>へ→ ←Back











アクセス解析 SEO/SEO対策